最新記事

感染症対策

徹底したウイルス対策実施のシンガポール 他国が真似できない内容とは

2020年2月27日(木)11時25分

シンガポールに移住したばかりの米国人ジェニー・キムさん(51)がマンション内で新型コロナウイルスの感染例を知った翌日、きちんとした身なりの男性が訪ねてきた。写真はシンガポールのスーパーを歩く男性と子ども。8日撮影(2020年 ロイター/Edgar Su)

シンガポールに移住したばかりの米国人ジェニー・キムさん(51)がマンション内で新型コロナウイルスの感染例を知った翌日、きちんとした身なりの男性が訪ねてきた。後で分かったのだが、男性は政府の高官だった。

キムさんが引っ越してきたのはちょうど、新型ウイルスの流行が始まったころだった。男性はキムさんに家族はどう感じているかと尋ね、いくつかの医療用マスクを提供してくれたうえ、シンガポールは状況にうまく対処していると語り、キムさんを安心させた。

キムさんの体験は、シンガポールで新型ウイルスとの戦いのために取られている潔癖なまでのアプローチをよく示している。警察捜査員や防犯カメラを使って2500人超を追跡、隔離。国際的にも賞賛された。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は今週、「シンガポールは徹底してすみずみまで調べている」と評価した。

しかし専門家は、シンガポールのようなウイルス対処策は他の国は簡単にまねできないと話す。他の国々には、シンガポールのような地理的な特性や資金力、幅広い国家管理体制がないからだ。

米ミネソタ大学の感染症専門家のマイケル・オスターホルム氏は「シンガポールが新型ウイルスを抑え込めないなら、できる国はないと思う」と語る。

国家の介入

570万人がひしめき合うこの島国では、(記事執筆時点で)新型ウイルスの感染者は84人と、日本のクルーズ船の大量発症事例を除けば、中国本土以外では最も多い。しかし専門家によると、シンガポールの感染者数が多いのは、探し当てる能力が高いことによる。

米ハーバード大学伝染性疾患動態センターの最近の研究によると、シンガポールは感染の監視や接触者追跡調査の能力によって、他国の3倍のペースで感染者数を突き止めているという。

国の規模も重要だ。中国・武漢市に比べると、面積は10分の1より小さく、人口はほぼ半分で、封じ込めが容易だ。

1965年の独立以来、政権党は変わらず、厳しい出入国管理も維持し、ウイルスをまき散らす可能性がある人々の監視を正当化できる厳格な法律もある。

1月末に初めて、中国人旅行者の感染例が見つかったタイミングで、140人に及ぶ政府の専門チームが、患者への聞き取りや濃厚接触者の特定と隔離のため設置された。

保健省当局者によると、航空会社に乗員乗客名簿の提出を求め、防犯カメラで患者の動きを追い、警察の捜査員も投入した。これまでに2593人ほどが隔離された。

シンガポール国立大学のチョン・ジャラン教授(政治学)は「ここではこうした個人生活への立ち入りが受け入れられている。この種の要求に対して、国民はかなり対応の準備ができており、これが追跡力の助けになっている」と述べた。

調査員に情報を伏せたり、不正確な情報を提供したりするのは犯罪と見なされる。隔離命令に従わなければ最大1万シンガポールドル(約80万円)の罰金か、最長6カ月の収監、もしくはその両方が科せられる。

当局は最近中国に渡航した労働者に14日間の禁足も実施し、1日に1000回以上にわたる電話や訪問で、禁足を守っているかを確認している。義務に違反すれば就労許可が取り消され、雇用主は外国人労働者を雇う権利を失う。

メッセージアプリ「ワッツアップ」の政府のアカウントには40万人近くが登録しており、政府から感染者数や予防法、インターネット上のうわさに対する警告など、新型ウイルスに関する注意情報が毎日送られる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

都区部CPI4月は1.6%上昇、高校授業料無償化や

ビジネス

ロイターネクスト:米経済は好調、中国過剰生産対応へ

ビジネス

アマゾン、インディアナ州にデータセンター建設 11

ビジネス

マイクロソフト出資の米ルーブリック、初値は公開価格
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中