最新記事

中国

新型肺炎以来、なぜ李克強が習近平より目立つのか?

2020年2月10日(月)19時11分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

李克強国務院総理 Wang Zhao/Pool via REUTERS

1月20日の新型コロナウイルス肺炎に関する「重要指示」を出してから、習近平は2回しか公の場に姿を現していない。なぜか?実はそこには習近平が生涯封印しておきたいような深刻な背景がある。この背景こそが新型肺炎を全世界に蔓延させた元凶だ。

「重要指示」発布の時、習近平はどこで何をしていたのか?

新型コロナウイルス肺炎発生以来、習近平国家主席が公の場に姿を現すことは少なく、最初が1月28日に北京の人民大会堂でWHOのテドロス事務局長と会見した時で、次は2月5日に同じく人民大会堂でカンボジアのフン・セン首相と会見した時だけである。

それ以外は姿を現さず、専ら李克強が鐘南山を横に置きながら会議を開いたり記者会見をしたりする姿が多く見られる。

権力闘争論者たちが飛びつくような状況なのだが、実はここには習近平にとっては致命的な背景がある。

習近平は早くから1月17日~18日にミャンマーを公式訪問し、19日~21日は雲南省を視察すると決まっていた。外国訪問となるとよほどのことがない限り直前のキャンセルは困難だろうし、また雲南行きも護衛や列車の保衛などがあり、ルートを変えるのは「よほどのことがない限り」容易ではない側面もあるかもしれない。

それは理解するとしても、1月24日付コラム<新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?>で述べたように、1月5日には上海市公共衛生臨床センターが病原菌は「歴史上見たことがない新型コロナウイルスだ」と明言したのだから、万全の警戒態勢に入っていなければならなかったはずだ。

ところが習近平は武漢市が発する「問題は解決しています。制御可能です」という忖度メッセージを信じてしまい、以下のパラグラフで述べる現場の医者や免疫学者の必死の警告を重視しなかったとしか言いようがない。

結果、1月17日という、すでに危険領域に入っている中で、李克強国務院総理に北京の政治を全て任せてミャンマーと雲南に出かけてしまったのである。

一般に国家主席が北京にいないときは国務院総理が、国務院総理が北京にいないときは国家主席が北京に残るということを基本ルールとして中国は動いているので、李克強が北京に残ったというのは常識的な現象だろう。

しかし北京に対して「当面気に入ってもらえさえすれば、それでいい」と、あり得ない忖度をする武漢政府を信じ、上海市公共衛生臨床センターにいる専門家たちの警告を重視しなかったからこそ習近平はこの事態を「よほどのこと」とは解釈せず、ミャンマーに行ってしまったものと判断される。

つまり、「国家の非常事態」に対する習近平の判断ミスがあったということになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調

ビジネス

米フォード、4月の米国販売は16%増 EVは急減

ワールド

米イラン核協議、3日予定の4回目会合延期 「米次第
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中