ニュース速報
ワールド

アングル:中東ファンドがワーナー買収に異例の相乗り、エンタメ育成意欲浮き彫り

2025年12月10日(水)19時14分

写真はワーナー・ブラザース・ディスカバリーのロゴ。12月5日撮影。REUTERS/Dado Ruvic

Federico Maccioni Rachna Uppal

[アブダビ 9日 ロイター] - 米メディア大手パラマウント・スカイダンスがワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)に対する1080億ドル規模の敵対的買収に乗り出したことを巡り、中東ペルシャ湾岸地域の3つの政府系ファンド(SWF)がそろって資金拠出に合意した。中東のSWFが1つの買収案件に相乗りするのは異例で、中東諸国のエンターテインメント産業育成への強い意欲が読み取れる。

パラマウントは8日、サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)、アブダビのL'imadホールディング・カンパニー、カタール投資庁(QIA)の3つのSWFがWBD買収計画の支援に合意したと発表した。

トランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏が立ち上げたアフィニティ・パートナーズもパラマウントの買収に資金を提供する。アフィニティはカタールやアラブ首長国連邦(UAE)のファンドから出資を受けている。

<異例のタッグ>

中東湾岸諸国の政府系ファンドは過去に同じ企業に投資したことはあるが、単一の案件で協力することはほとんどなかった。例えばムバダラとPIFによる2020年のインド小売り大手リライアンス・リテールへの投資では、23年にはQIAとアブダビ投資庁が投資に加わっている。

今回は買収規模が大きく、複数のファンドから資金提供を仰ぐ必要が生じたのではないかと、この案件に関与していない中東湾岸地域のバンカーは指摘した。それにしても中東湾岸の政府系ファンドが敵対的買収に参加するのは異例だという。

パラマウントは当局への提出書類で中東SWFによる今回の資金提供について、投資家は取締役会の議席や議決権といったガバナンス権を持たないため、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)による承認は不要と説明した。

<目指すは一流プレーヤー>

ペルシャ湾岸の複数のSWFが1件の買収計画で歩調を合わせ、「ハリウッドの宝石」の一部を手に入れようとしている今回の決断から、中東諸国が制作からコンテンツに至るメディア関連資産に強い関心を持ち、世界的な買収案件で影響力を高めている様子が浮き彫りになった。

アズール・ストラテジー(ロンドン)のパートナー、ニール・クィリアム氏は「3つのSWFが協力態勢を敷くのは非常に珍しいが、今回の取り組みによって3カ国は中東の地域メディア帝国の枠を超えて一流プレーヤー入りする」と述べた。今回の動きは3カ国が抱く「世界的な影響力を手に入れ、新たなメディアの物語を形作るという共通した野望」にも合致しているという。

PIF、アブダビ政府、およびQIAはコメントの要請にすぐには応じなかった。

<エンタメ分野の育成に熱意>

中東湾岸諸国は、映画プロダクションの誘致からテーマパーク、映画館の開設まで、国内のエンターテインメント産業の育成に熱心に取り組んでいる。

中東を専門とする政治経済学者ロバート・モギエルニツキ氏は「この分野は中東湾岸の政府系ファンドやその他の投資家にとって、戦略的かつ最優先の投資領域だ」と指摘。「パラマウント買収によって、世界で最も象徴的な番組の権利と、まったく新しい視聴者層に接する道が手に入る」と述べた。

ユニバーサル・ピクチャーズが2015年に公開の「ワイルド・スピード SKY MISSION」では、UAEの高級ホテル、エミレーツ・パレスやリワ砂漠がロケ地となった。

PIFは9月にはサウジのメディア大手MBCの過半数株式を取得。同社は13の無料放送チャンネルを運営し、「中東のネットフリックス」として知られるストリーミングプラットフォーム「シャヒード」も手がける。

さらにPIFが主導する投資家グループは9月に、ビデオゲーム開発会社エレクトロニック・アーツを550億ドルで買収することに合意した。この案件はレバレッジド・バイアウト(LBO)としては過去最大級で、サウジをゲームスポーツの世界的な拠点にするという野望が見て取れる。

サウジは18年に35年ぶりに映画館の開設を認め、AMCエンターテインメントと契約を結んだ。

中東湾岸地域ではハリウッドが後ろ盾のテーマパークも続々と登場している。ウォルト・ディズニーが5月に同社にとって中東地域初となるテーマパーク建設計画を発表。ワーナーは既にアブダビのヤス島に「ワーナー・ブラザース・ワールド」を展開している。

<対米大規模投資を約束>

UAE、サウジ、カタールは今年、米国への大型投資を相次いで約束しており、トランプ政権との関係を一段と深めている。

サウジはムハンマド皇太子の最近の訪米後に対米投資の規模を従来の6000億ドルから1兆ドルに引き上げた。アブダビは米国に1兆4000億ドルを投資すると約束しており、カタールも今後10年間で5000億ドルを投資する計画だ。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=

ワールド

EU、27年までのロシア産ガス輸入全面停止へ前進 

ワールド

アングル:中東ファンドがワーナー買収に異例の相乗り

ワールド

タイ・カンボジア紛争、トランプ氏が停戦復活へ電話す
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 5
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的、と元イタリア…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中