最新記事

ブレグジット

EU離脱後の英国の進路──打ち砕かれた残留派の願い。離脱派の期待も実現しないおそれ

2020年2月14日(金)13時45分
伊藤 さゆり(ニッセイ基礎研究所)

他方、英国とEUの「将来関係協定」の発効手続きを20年末までに終えることは困難と見られている。協定の叩き台となる「政治合意」では、財、サービスからエネルギー、漁業まで幅広い領域をカバーする経済関係だけでなく、安全保障のパートナーシップ、制度的な枠組みやガバナンスまでカバーする。

広範な分野をカバーすれば協議には当然時間を要するし、加盟国が権限を有する領域に及ぶため、批准手続きはEUの欧州議会だけでなく、加盟各国でも行う必要が生じる。

ジョンソン首相が、経済的な打撃の回避、あるいは、離脱を巡る英国の分断の修復のため、前言を翻し、移行期間の延長に動くとの期待もあるが、政治的には困難な選択だ。移行期間の延長には、EU予算への相応の拠出も必要になる。EUの通商政策の枠内にも置かれる。議会で過半数を得た今、「20年末の移行期間終了」の約束を果たせない責任を議会に転嫁できない。EUに譲歩したと見られれば、支持者の離反を招く。

ジョンソン首相の「将来関係協定」の「政治合意」は、財については関税ゼロ、数量割当の回避を求めるが、単一市場からは離脱、規制の乖離を容認する。

筆者は、移行期間の延長よりは、20年末の移行期間終了時に、比較的短期間での合意が可能と見られ、批准手続きも比較的容易な簡素なFTAと規制の同等性を評価する「同等性評価」の枠組みに基づく関係に移行する可能性の方が高いと思っている。

形としては「秩序立った離脱」だが、部分的で安定性を欠き、継続協議の領域を多く残すことになる。

離脱後の英国の成長戦略

EU離脱を実現したジョンソン政権には、離脱のベネフィットを具体的に示す政策を打ち出す必要がある。

EUは、離脱後の英国が、EUに対する競争上の優位性を高めるため、大胆な規制の緩和、税率の引き下げに動くことで、企業の誘致を図る「テムズ川のシンガポール」化構想を警戒する。

EU首脳らの警戒感は、「政治合意」の「競争条件の公平化」の文言が、メイ前首相との合意時よりも、ジョンソン首相との修正合意で、より強い表現が用いられたことにも滲み出ている。

しかし、離脱後の英国が「テムズ川のシンガポール」に舵を切ることを阻む力を持つのは、EUではなく、英国の有権者だろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5

ビジネス

英建設業PMI、10月は44.1 5年超ぶり低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中