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EU離脱後の英国の進路──打ち砕かれた残留派の願い。離脱派の期待も実現しないおそれ

2020年2月14日(金)13時45分
伊藤 さゆり(ニッセイ基礎研究所)

かつて英国の金融監督手法は、「ライトタッチ」と評されたが、世界金融危機と英国の住宅バブル崩壊で多額の公的資金を投じた経験を経て、厳格化せざるを得なくなった。

法人税率の引き下げや所得税の最高税率の対象所得額の引き上げといった企業の誘致や高技能人材の受入れにつながる税制改革は、EU離脱による暮らし向きの改善を期待して、保守党に票を投じた有権者は裏切りと受け止めるだろう。

「テムズ川のシンガポール」や、EUから離れて、域外との関係を強化する「グローバル・ブリテン」は、保守派のエリートがEU離脱によって実現したい英国の未来図だ。

しかし、これだけでは離脱実現の決め手となった票を投じた「赤い壁」の労働者が期待する暮らし向きの改善、格差の是正は実現しない。

「グローバル・ブリテン」戦略も、米中の二大国が対立する時代に、EUを離れた英国は、立ち位置に苦慮し、結果として、EUと共同歩調を採ることも増えるのではないか。

総選挙での保守党の勝利で、離脱撤回を願う残留派の願いは打ち砕かれた。離脱派は、思いを遂げることになったが、エリートも労働者も、離脱によって、期待通りの成果を得られるとは限らない。

英国の離脱は単一市場の縮小を迫られるEUにも痛手だ。

英国のEU離脱に勝者はいない。

ItoSayuri_Profile.jpeg[執筆者]
伊藤 さゆり (いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部   研究理事

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