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仮想通貨

仮想通貨の扱いが、日米の会計基準で大きく異なるのはなぜか

2020年1月29日(水)12時16分
木村兼作(公認会計士)

■クリプト会計基準の今後

この数十年の各国の会計基準の大きな流れは国際的なコンバージェンス(収斂)だったため、クリプトという新しい論点に関して早くもGAAP差が生じているのは面白いポイントです。どちらの基準も既存の会計の枠組みになんとかデジタル・アセットを当てはめようと知恵を絞った結果だと思います。

本来、会計基準は経済実態を表現するようにデザインされなければなりません。新しいサービスや契約形態などが登場するたびにそれらの経済実態を表すベく会計基準は今までも変化してきました。世の中を大きく変えてしまうほどの技術が登場した場合、会計基準の微調整だけではその実態を表現できなかったとしても不思議ではありません。

クリプトも第一世代がペイメント・カレンシー系だとすると第二世代のプラットホーム系とこの10年で多様化しています。プラットホーム系のクリプトは値動きのエクスポージャーや決済のために使うのではなく、そのブロックチェーンプラットホームを利用するために保有するものがあります(EOSなど)。

この場合FVTPL(PLを通した時価評価)はもしかしたら実態を現しておらず、FVOCI(その他包括利益を通した時価評価)や無形資産のような処理が実態を現しているのかもしれません。一つ一つが固有の資産であるNon-Fungible Token (NFT) を利用したデジタル・キャラクターやデジタル・アイテムなどを購入した場合は、その購入意図によって棚卸資産や無形資産として処理するほうがより実態に近いといえます。

そしてビットコイン。国家による裏付けがある通貨よりもプログラム、コンピューター、電力による裏付けがある通貨を選択する人が増え始めています。その場合、法定通貨と同じように現金として処理するほうが実態を表すケースも増えてくるはずです。

その事業活動をビットコイン中心で行っている会社の機能通貨(Functional Currency)は法定通貨ではなくBTCかもしれません。そのような世界を今想像することは難しいですが、この10年のクリプト・ブロックチェーンの進化を見ているとそう遠い未来でもないのかもしれません。

木村兼作
公認会計士/米国公認会計士、CFA協会認定証券アナリスト。木村公認会計士事務所代表。Quantum Accounting 株式会社取締役。2006年にKPMG入社後、東京とニューヨークで勤務。2016年に独立した後は複数の暗号通貨プロジェクトに関与。週末の主な過ごし方はノードのメンテナンス。

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