最新記事

温暖化否定論

オーストラリアの山火事をあおる、フェイクニュースの大嘘

MURDOCH IS AN ARSONIST

2020年1月22日(水)18時10分
マイケル・マン(米ペンシルベニア州立大学地球システム科学センター所長)

史上最悪の山火事はオーストラリア全土に燃え広がっている ©2020 MAXAR TECHNOLOGIES-HANDOUT-REUTERS

<化石燃料業界や保守派の政治家らは一致協力してデマをまき散らし、惨事の本質から目をそらさせようとしている>

危機の際ソーシャルメディアは誤報の温床になり得る。ハリケーンが上陸すると毎回のように「高速道路にサメ」というフェイク画像が出回るように、人々は誤った情報をうのみにしてシェアしがちだ。だが、それとは別の、はるかに邪悪な誤報が増えている。トロール(荒らし)とボット(自動プログラム)集団が組んで、嘘や意図的な偽情報を故意に送り込むのだ。

私は研究休暇を取得し、オーストラリアのシドニーで気候変動がこの国の異常気象に及ぼす影響を調査しているが、まさかその最たる例を目撃することになろうとは。この原稿を書いている最中も、史上最悪の山火事で空に煙が立ち込め、開け放った窓から煙の臭いがかすかに漂ってくる。気候変動の調査中にその影響を身をもって何度も体験するという、21世紀の気候科学の皮肉だ。

気候変動の現実と脅威を否定し、化石燃料業界の利益を促進する個人と組織は、一致協力してこの惨事の本質を誤解させようとしている。既に死者20人以上、野生動物10億匹以上が死亡した今回の火災には、気候変動が影響しているとの意見も多い。化石燃料の燃焼などで温室効果ガスの排出量が増加。気温が上昇して干ばつが悪化し、暑さと乾燥で火が激しさを増し、より広範囲に燃え広がっているというわけだ。2008年には現地の科学的評価報告書が「従来より山火事シーズンの開始が早まると同時にやや長期化、激しさも増すだろう。2020年には顕著になるはずだ」と予測していた。

保守派のモリソン首相は石炭産業継続と気候変動否定論を支持し、2019年末にはスペインの首都マドリードで行われた国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)をぶち壊し、猛暑と山火事に苦しむ国民をよそにハワイで休暇を楽しんでいた。気候変動否定論者が選挙に勝てば死と破滅が待っている──それを国民が痛感する絶好の機会だった。

偽情報はすぐに出回った。森林火災防止のために政府が計画した伐採や野焼きを、環境保護論者が阻止していると、保守派の政治家と評論家が非難したのだ(「議論をそらす」ための「政治的レトリック」であり「陰謀論」だと専門家は一蹴したが)。

オーストラリア出身のアメリカ人メディア王、ルパート・マードックが所有するメディアは偽情報攻勢を開始。山火事の主な原因は「放火」だというデマを広めようとした。これに対し、マードック所有のニューズ・コーポレーション内部から、同社が「無責任」かつ「危険」な報道をする「誤報キャンペーン」を展開していると告発する声が上がった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中