最新記事

イラン

ウクライナ航空機墜落 疑惑のイランのミサイルシステムとは

2020年1月11日(土)10時15分

現場で見つかったとされるのは、ロシア製の自走式防空システム「トールM1」(別名SA-15ガントレット)に搭載されるミサイルの破片。写真は軍事パレードに登場した「トールM1」。2009年9月、テヘランで撮影(2020年 ロイター/Raheb Homavandi )

カナダのトルドー首相は9日、イランでのウクライナ旅客機墜落について、イランの地対空ミサイルによって撃墜された誤射だった可能性が高いと表明した。

ウクライナ政府は、現場で見つかったとされるイラン軍が使用するロシア製ミサイルの破片の写真がインターネット上で取り沙汰されていることに言及し、ウクライナの調査団がミサイル撃墜の可能性を巡り現場を調査する方針を示した。

現場で見つかったとされるのは、ロシア製の自走式防空システム「トールM1」(別名SA-15ガントレット)に搭載されるミサイルの破片。

トールは、ミサイル発射装置とレーダーを車両に搭載した短距離「拠点防衛」システムで、米科学者連盟によると、最大で高度6000メートルの標的を攻撃できる。射程は12キロ。

標的を攻撃するには、トールを操作する兵士がレーダーで標的を特定し、ミサイルの発射を指示する必要がある。

ウクライナ機が墜落した時には、他にも複数の民間機が付近を飛行しており、トールのレーダーですべて把握できたとみられる。

トールに搭載されるミサイルは、レーダーで誘導され、音速の3倍近いスピードで飛行する。5キロ先の目標であれば、約5秒以内に到達する。

ミサイルには小型の弾頭があり、爆発すると金属の破片が飛散する設計になっている。

ミドルベリー国際研究所のマイケル・ドゥイツマン研究員によると、ウクライナ機がミサイルで撃墜された場合、乗務員には対応する時間はなく、ミサイルが向かっていることにも気づかなかった可能性がある。

同研究員によると、トールはイランが保有する最も近代的な防空システムの1つ。2つの目標をそれぞれ2つのミサイルで同時に攻撃できる。イランが2000年代半ばにロシアからトールを購入した際、「米国が懸念を示したほどの性能を持つ」という。

米当局者は、ウクライナ機が墜落する直前にミサイル2発が発射された兆候を米国の衛星が捉えていたことを明らかにしている。その直後にウクライナ機の付近で爆発があったという。

米ニューヨーク・タイムズ紙はウクライナ旅客機にイランのミサイルが命中する瞬間を捉えたとされる動画を公開した。

イランはウクライナ機がミサイル攻撃を受けたとの見方を否定している。

ミサイル防衛推進同盟(MDAA)の設立者リキ・エリソン氏によると、一度ミサイルを発射すれば、地上の兵士が誤射だと気づいても、ミサイルの飛行ルートを変更するのは不可能という。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200114issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月14日号(1月7日発売)は「台湾のこれから」特集。1月11日の総統選で蔡英文が再選すれば、中国はさらなる強硬姿勢に? 「香港化」する台湾、習近平の次なるシナリオ、日本が備えるべき難民クライシスなど、深層をレポートする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英パリサーが日本郵政の価値向上策、株価は「過小評価

ワールド

中国の10月大豆輸入、75%がブラジル産 米国産は

ビジネス

米労働省、10月雇用統計発表取りやめ 11月分は1

ワールド

エプスタイン関連文書巡り、サマーズ氏らの調査開始=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中