最新記事

首脳の成績表

蔡英文の成績表:若者の人材流出には有効策を打てないままだが、香港情勢の緊迫化で支持回復

2020年1月4日(土)11時30分
長岡義博(本誌編集長)

TEACHER’S PET=先生のお気に入り(アメリカではリンゴは先生への代表的な贈り物) ILLUSTRATION BY ROB ROGERS FOR NEWSWEEK JAPAN

<クラスの優等生っぽい女性台湾総統、「空心菜」批判をかわし中国と対峙できるか。世界の首脳を査定した本誌「首脳の成績表」特集より>

クラスの委員長でクラス一番の優等生──台湾総統の蔡英文(ツァイ・インウエン)ほど、このイメージがぴったりの政治家はいない。

眼鏡姿の見た目だけではない。経歴も優等生そのものだ。台湾トップの国立台湾大学法学部を卒業後、米コーネル大学ロースクールで修士号を、ロンドン・スクールオブ・エコノミクスで博士号を取得。28歳で帰国して国立政治大学などで副教授・教授を歴任した後、国際貿易の専門家として国民党政府入り。2000年に民進党から請われて44歳で大陸委員会主任委員になった。共産党との関係に責任を持つ重要ポストである。

といって堅物なわけでもない。2016年の総統選では自身をネコ耳の萌えキャラ化して当選。その後、台北で開かれたコミケに現れ、ファンと気さくに交流した。軍艦を擬人化したゲーム『艦これ』のキャラクター「霧島」に似ていると言われてまんざらでない様子を見せる、気取らない人だ。

1月11日の総統選挙を前にして、蔡は国民党の韓國瑜(ハン・クオユィ)をリードしている。再選の可能性は高そうだが、それは総統としての蔡の政策が優れていたからでは必ずしもない。

思い出してほしい。昨年11月に行われた統一地方選挙で、民進党は国民党に大敗を喫した。敗因は蔡が推し進めた年金改革や脱原発への反発もさることながら、高雄市長に当選した韓のようなポピュリストが支持される素地──格差や閉塞する現状への怒り──が蔓延していたからだ。

台湾の20~24歳の失業率は11.7%と、2~3%にとどまる30歳以上に比べて圧倒的に高い。好条件の仕事を探して若者はやむなく海外を目指す。台湾にとって人材流出だが、蔡政権はまだこの問題に有効な手だてを講じていない。

「空心菜」は中国野菜の名前だが、台湾では蔡を揶揄する言葉でもある。政策が往々にして抽象的で曖昧、そして揺れ動くことを批判する人々が中国語の発音が同じ「菜」と「蔡」を掛けて「中身がない」と皮肉っている。

今年1月、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は台湾に「一国二制度を受け入れて平和統一」を迫った。「武器の使用は放棄しない」と、脅しもかけた。いよいよ追い詰められたはずの蔡が一転して上昇気流に乗ったのは、香港の逃亡犯条例改正案反対デモがきっかけだ。

条例改正反対を掲げつつ、本質は中国による自由の抑圧と民主化阻止への抵抗運動である香港デモと警察の鎮圧は、「一国二制度の未来」を台湾人に見せつけた。「今日の香港は明日の台湾」との恐怖の広がりが、大陸に厳しい姿勢を続けてきた蔡の支持急回復につながったのは間違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中