最新記事

中国

棘は刺さったまま:米中貿易第一段階合意

2019年12月16日(月)11時40分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

なかなか進展しなかった米中貿易協議だったが…… Ng Han Guan/Pool via REUTERS

米中貿易協議「第一段階」の合意が発表されたが、これはあくまでも一時的な休戦で、ハイテク領域における覇権争いは残ったままだ。かてて加えて合意文書に刺さっている「棘」は、偽善的表現で覆い隠されている。

合意文書の概要

12月13日23時を過ぎたころ、中国の国務院新聞弁公室は新聞発布会(記者会見)を開き、中米貿易協議「第一段階」合意に関して発表し、記者からの質問に応じた。

発布者側として列席していたのは「国家発展改革委員会の寧副主任、 中央財形委員会弁公室副主任で財政部の寥副部長、外交部の鄭副部長、農業農村部の韓副部長、商務部副部長で国際貿易談判の王副代表」などである(簡体字で日本語ネットでは表現できない文字が多いので、姓名に関しては「名」を省いて「姓」だけを書いた)。

米中が合意した追加関税に関わる部分だけを客観的情報としてまとめるなら、概ね以下のようになる。

今年12月15日に予定していたアメリカの制裁関税と中国の報復関税の発動を見送る。

アメリカが制裁関税を上乗せしていた中国からの輸入品計3700億ドル分のうち、2500億ドル分(昨年の第1~3弾)に課した25%は据え置く。

残りの1200億ドル分は現行の15%から7.5%に引き下げる。

中国側の発布会では、先ず以下のようなことが説明された。

1.合意文書は「序、知的財産権、技術移転、食品と農産品、金融サービス、為替と透明度、貿易拡大、双方による評価と紛争処理」など9項目から成る。

2.米中双方は「アメリカが段階的に中国製品に対して課していた追加関税を引き下げていく(中国語では段階的「取消」)。

3.今後、追加関税を「増加から減少」に転換していく(筆者注:中国側の元々の要求は追加関税をゼロにすること)。

4.米中双方は各自法律的審査を迅速に完成させ、翻訳校正などの手続きを経て、正式に署名するプロセスに入る。

発布会における説明は概括的で大雑把なものだったが、質疑応答の中で、仔細が明らかにされ、また明確に回答しない「棘」が刺さっているのが浮き彫りになった。

質疑応答から見えた米中農産品問題

まず、質疑応答から見えた米中の農産品問題に関して考察してみよう。

質問A:経済日報記者。この合意書が署名された後、中国はアメリカから輸入する農産品が大幅に増加するんですよね。これは中国国内に衝撃を与えるのではないか、教えて下さい。

回答A:農業農村部の韓副部長。この合意は米中が平等になっています。アメリカは中国産の調理済み家禽やナマズ製品を輸入することに合意しています。また梨、ミカン、ナツメなども輸入することにアメリカは同意しています。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中