最新記事

中国

棘は刺さったまま:米中貿易第一段階合意

2019年12月16日(月)11時40分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

もちろん、疑いなく、アメリカからの農産品輸入が大幅に増大するのは確かです。WTOに加盟して以来、中国の農産品貿易規模は拡大の一途をたどっている。2018年の農産品貿易総額は2168.1億米ドルですが、そのうち輸入額は1371億米ドルで、2018年は125億米ドル増加しています。中国の農産品輸入高は世界最大で、全世界の10分の1にも達しているのです。

米中は両国とも農業大国で、互いの農業を補い合っている。

たとえば貿易摩擦が生じる前の2015年から2017年では、中国はアメリカから毎年242億米ドルの農産品を輸入していた。しかし追加(制裁)関税が始まった2018年以降、中国がアメリカから輸入した農産品は162.3億米ドルにまで減少しました。32.7%の下落なのです。

今年、1月から10月までの統計では、中国がアメリカから輸入している農産品は104億米ドルで、同期比30.8%減となっています。

したがって合意書が署名された後にアメリカから大量の農産品を輸入することになっても、これは我が国(中国)における欠損部分を補填するだけで、決して我が国の国内産業に衝撃を与えるものとはなりません。たとえば、我が国の大豆の輸入量は9000万トンで、(大豆の全体消費量の)85%は輸入に依存しています(筆者注:全体の年間消費量は10588万トン程度になるということに相当する)。だから国内のニーズを満たす急務があり、かつ国内生産者には影響を与えないのです。

以上、農産品に関する概ねの回答をご紹介したが、具体的な数値目標に関して、中国側は言明していない。ホワイトハウスは、農産品の規模は今後2年間で平均400億米ドルから500億米ドル相当としているので、回答の「貿易摩擦が生じる前の2015年から2017年では、中国はアメリカから毎年242億米ドルの農産品を輸入していた」を基準にすれば、これまでの「2倍」を中国はアメリカから輸入することになる。

もし上記回答の「今年、1月から10月までの統計では、中国がアメリカから輸入している農産品は104億米ドルで」を基準に考えると、今より「4倍から5倍」の農産品をアメリカから輸入することになる。

これでは、中国政府側が、どんなに国内生産者に影響は与えないとして、(85%が輸入に依存しているとする)大豆の極端な例を引いてきても、国民を説得できるかどうかは疑問だ。

だから今は、数値を明言しないのだろうと邪推もしたくなるわけである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ボーイング機墜落、米当局が現地で調査開始 印当局が

ワールド

イラン世界最大級ガス田で一部生産停止、イスラエル攻

ビジネス

米主要港ロサンゼルス、5月の輸入は前年比9%減 対

ワールド

ベトナム、米との貿易交渉進展 主要な問題は未解決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中