最新記事
韓国

キャッシュレス化が進んだ韓国、その狙いは何だったのか?

2019年12月13日(金)17時10分
佐々木和義

政府も手数料無料のモバイル決済サービスを始めている韓国 KBS-YouTube

<韓国はキャッシュレス決済が90%を超えるキャッシュレス大国。その歴史と実情は......>

韓国与党・共に民主党の朴光温(パク・グァンオン)議員は、2019年10月31日、日本製品不買運動の状況として、カード会社8社から提出された韓国ユニクロのカード売上額現況を公表した。韓国ユニクロは個別売上を公にしていないが、カード売上を見れば現状が把握できるのである。

この例でわかるように韓国はキャッシュレス大国。個人消費の75%をカード決済が占め、キャッシュレスが90%を超える。こうしてカード会社間の競争やキャッシュレスの多様化が進んでいるいっぽう、課題も生じている。

97年通貨危機の後、消費の活性化、税収確保の目的で一気に進む

韓国銀行が2017年と18年に行なった調査で98.2%が現金を携行していたが、平均所持額は7万3000ウォン(約6700円)で、自宅やオフィス等に現金を保管している人は23.3%だった。30代から50代の90%以上がカードを利用し、さらに20代と30代のおよそ40%が電子マネーやモバイル決済を利用していた。

韓国のキャッシュレス化のスタートは1997年に遡る。いわゆるIMF通貨危機の後、政府は消費活動を活発化させ、税収を確保する方策としてクレジットカードの普及を促進した。カード会社は無利子割賦を提供するなど、高額商品の購入を後押しする。カードの決済情報は国税庁に提出され、税収の基礎データとなる。

また、韓国政府は北朝鮮のテロ対策として導入している個人を識別する住民番号を活用した与信の拡大や300万ウォンを上限にカード利用額の20%を控除するカード所得控除、カード利用に抽選番号を付与した宝くじなどを導入。カード所得控除は2012年の税制改正で15%に引き下げられ、19年3月で廃止する予定だったが、3年間の延長が決定している。

脱税も防げるカード決済

韓国の小売店など1000ウォン(約91.2円)以上の買物はカード決済への対応が原則だ。市中の商店で値段交渉を行うと、現金なら値引きに応じるがカードは税金がかかるから安くできないと言われることは珍しくない。現金なら脱税できるがカード払いは課税を逃れられないというのだ。

企業等の接待交際費は企業カードの支払いのみが経費として認められ、現金で支払った交際費は使徒不明金として扱われるなど、一部の取引はカード払いが義務付けられるが、利用する飲食店等の脱税を防ぐために導入された制度である。

個人がカードで支払った決済情報は所得控除に反映される。企業間取引は、決済の都度、消費税に相当する付加価値税10%の手続きが義務付けられるが、カードの決済情報と合わせて計算され、申告手続を簡便にすると同時に税収に活用されている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBが3会合連続で0.25%利下げ、反対3票 緩

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRBに十分な利下げ余地、追加措置必要の可能性も=

ビジネス

米雇用コスト、第3四半期は前期比0.8%上昇 予想
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中