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キャッシュレス化が進んだ韓国、その狙いは何だったのか?

2019年12月13日(金)17時10分
佐々木和義

ぼったくりタクシーなどの非正規業者や非正規取引でカードが使われることはほとんどなく、また商店にとって決済手数料の負担は小さくないが、経営者が管理する口座に振り込まれることから従業員の現金着服を防ぐ効果もあり、キャッシュレスは飛躍的に普及した。

政府も手数料無料のモバイル決済「ゼロペイ」を開始

政府はコインレスも推進する。金属の価格変動で製造原価が貨幣価値を上回りかねないからだ。2004年、ソウル市は非接触型の交通カードを導入した。硬貨が不要で運転手が現金に触れることもない。当初は首都圏の地下鉄やバスのみだったが、タクシーや交通カードを扱うコンビニエンスストア、また、全国の地方都市や高速道路など利用範囲が拡がっている。交通カードを利用すると、首都圏の地下鉄やバスは100ウォン割引となり、また乗り継ぎの際に割引が適用されるインセンティブがあるなど、市民は交通カードを利用する。

モバイルを活用したキャッシュレスサービスは、ポータルサイト最大手のNaverが運営する「Naver Pay」やSNSのKakaoTalkと連携した「KakaoPay」、サムスン製スマートフォンに装備された「Samsung Pay」が普及するが、政府とソウル市も2018年12月から「ゼロペイ」の運用を開始した。小売業者の負担軽減を名目に加盟店手数料を最低0%まで抑えたモバイル決済で、利用者が40%の所得控除を受けられるインセンティブを導入した。

キャッシュレス化が進んだ弊害も

キャッシュレス化が進む韓国だが弊害もある。2018年11月、韓国通信大手KTの支社で火災が発生した際、同社の通信回線を使用するキャンッシュレス決済が利用できなくなったのだ。銀行のATMも使用できず、現金を引き出すこともできなくなった。

また、キャッシュレス化によるカード破産が社会問題化している。さらに、文在寅政権誕生後の最低賃金の急騰や52時間制導入等で上昇した賃金を価格に転嫁する例が後を絶たず、物価上昇をもたらしている。現金払いは受け取った釣りを見て値上げを認識できるが、普段から現金を利用しない消費者は値上げに気付きにくいのだ......。

そして、カード会社も安泰ではない。カードの利用を促す無利子割賦やポイントなどがカード会社の経営を圧迫し、手数料無料のゼロペイもはじまった。米クレジットカード大手のダイナースクラブは2019年末をもって韓国内のカード発行を終了すると発表し、韓国から撤退するのではないかと報じられている

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