最新記事

メディア

なぜ私たちは未来予想が好きなのか?

2019年12月12日(木)14時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

『予言する日本人――明治人のえがいた日本の未来』(竹内書店、1966年)より

<1920年の雑誌『日本及日本人』の「百年後の日本」予測と、このたび刊行された雑誌『アステイオン』の「100年後の日本」予測。各界の論者は日本のジェンダー、情報化、働き方......の未来を、なぜ、そしてどう予想するか>

未来予測は昔から人々の関心の的となってきた。

ここ数年でも未来予測に関する本は次々刊行され、『2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する』(文藝春秋、2017年)、『マッキンゼーが予測する未来―――近未来のビジネスは、4つの力に支配されている』(ダイヤモンド社、2017年)などがロングセラーとなっている。どうやら私たちは皆、未来を予測することが好きなようだ。

今からちょうど100年前の1920年(大正9年)、(学校の教科書では「国粋主義者」と教えられる)ジャーナリストの三宅雪嶺が主宰する雑誌『日本及日本人』が「百年後の日本」を特集した。

そこには島崎藤村、菊池寛、室生犀星など現在でも著名な作家から、大学教員や地方都市の公立学校の教師、また新聞社や出版社の社主、宮司、軍人、料亭の主人など300人を超す人々が原稿を寄せ、100年後の日本について論じた。

中には日本が滅亡する、人口が2億人になっている、ノーベル文学賞は13人受賞しているといった予想が外れたものもあれば、男性も女性も洋服を着るようになる、鉄筋コンクリートの家が増える、少子化問題に政治家が悩んでいる、女性政治家もいるといった予想どおりになったものもある。

asteion191212-100yrs-3.png

1920年の雑誌『日本及日本人』の「百年後の日本」予測のひとつ。100年前の人々が予想した「対面電話」は「テレビ電話」やスカイプとして実現した

以下はそのひとつ、第一高等学校(現・東京大学教養学部)の教授で哲学者・大島正徳の「勝手放題な『だろう話』」からの引用だ。


(略)うそがまこととなるためしもあるので、勝手放題に「だろう話」をいえば......

一、 いわゆる普通選挙はもちろんのこと、婦人の代議士などが出てくるだろう。
一、 大学はもちろん、男女入学ご勝手次第ということになろう。
一、 華族制度はなくなり、何々家という旧家の名前は残るであろう。
一、 義務教育は十年に延長され、かつ、好みと能力に応じて、いかなる子弟も高等教育を受けうるようになるであろう。
一、 都会では家族が下宿住まいをするもの多く、西洋式の共同建築が多くなるであろう。
一、 電車は汽車に変わり、飛行機は有力の配送・交通機関となるであろう。飛行機で富士登山をするものなどがあるだろう。
一、 ローマ字が普通に用いられるようになるであろう。
一、 海が生産上に大いに利用されるであろう。
一、 学者・科学者が政治上に有力な役目をもつようになるであろう。
一、 生活に直接必要のことは国家直営ということになろう。

 まだいくらでもあるだろうけれども、まずこのくらい。

大島の予測はなかなかいい線いっているのではないだろうか。大島に限らず、300の未来予測の中には、飛行機の発展や華族制度の解体、日本語のローマ字化への言及が多い。その当時の話題、ニュースや世相が反映されているのであろう。また、この企画に対して、明日のことも分からないのに100年後のことなんか分かるはずもないといった批判や皮肉を込めた寄稿も多い。

実際、この「百年後の日本」特集が刊行された1920年4月のちょうど1カ月前の3月に戦後恐慌が起こり、株価が大暴落した。その後、関東大震災が起こり、太平洋戦争に突入していくことは、「百年後の日本」への原稿執筆時には、執筆者たちは誰も予想できなかったのではないだろうか(「世界を相手に戦うことあるべし。一時は全国焦土に化する」と戦争を予測していたものはあるが)。

歴史を振り返ると、出来事はいずれも必然的な何らかの因果の結果だったような感覚になる。しかし、「現在」とは突発的な出来事の連続上にできあがったものであり、実は脆いものなのではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中