最新記事

地球温暖化

アマゾンの熱帯雨林が燃えるとアンデスの氷河が解ける

Amazon fires are causing glaciers in the Andes to melt even faster

2019年12月3日(火)16時20分
マシュー・ハリス(英キール大学気候科学博士課程)

熱帯雨林が燃えると、凄まじい量の黒色炭素が吐き出される Bruno Kelly-REUTERS

<熱帯雨林火災から吐き出された煤が、アンデスの氷河を覆って太陽の熱を吸収するメカニズムを解明>

南米アマゾンの熱帯雨林では、森林火災が拡大して甚大な被害が出た。熱帯雨林では森林火災が毎年発生しているが、ここ11カ月間を見ると、発生件数は2018年と比べて70%以上も増えている。これはブラジルにおいて、木材伐採や農業のために土地開墾が急激に進んでいることを示している。

森林火災による煙は大気圏に達するほどの高さまで立ち上り、宇宙からでも確認できる。ブラジルの一部の地域では、濃い煙のせいで空港が閉鎖されたほか、都市上空も煙で覆われて暗くなった。

熱帯雨林が燃えると、二酸化炭素や一酸化炭素のほか、煤煙(いわゆる黒色炭素[ブラックカーボン]粒子)が大量に発生する。そのすごさは「大量発生」という言葉でも言い尽くせないほど。南米では毎年、森林や草原が燃やされ、80万トンという途方もない量の黒色炭素が大気中に排出されている。

欧州の年間排出量の倍

この量は、ヨーロッパ全体のエネルギー消費で過去12カ月間に排出された黒色炭素のほぼ2倍という驚くべきものだ。こうした桁外れの量の煙は、健康問題を引き起こすばかりか、地球温暖化の原因にもなる。さらに、こうした煙は氷河の融解を引き起こす、より直接的な要因であることも、科学的研究で次々と明らかになっている。

オンライン学術雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された最新の研究論文では、2010年にアマゾンで発生した森林火災の煙によって、アンデス山脈の氷河融解がどのように進んだかが解明されている。

アマゾンの森林火災がピークに達する8月から10月のあいだに黒色炭素が排出されると、風がその煙を、アンデス山脈の海抜5000メートル以上の地点にある氷河まで運んでいく。

黒色炭素の粒子は、肉眼では見えないものの、氷河が太陽光を反射する割合(アルベド)を低下させる。直射日光が当たったときに、暗い色の車のほうが明るい色の車よりも早く温度が上がるのと同様に、黒色炭素の粒子で覆われた氷河は熱を吸収しやすくなる。その結果、融解も加速する。

研究チームは、粒子が大気圏を移動する様子を示すコンピューターシミュレーション・モデル「HYSPLIT」を使い、アマゾンから立ち上る煙が、風によってアンデス山脈まで運ばれる様子を再現した。煙はその後、目に見えない霧となって氷河に降り注ぐ。2010年に発生したアマゾン森林火災により、ボリビアにあるゾンゴ氷河から流出する水の量は4.5%増加したと、研究チームは明らかにした。

さらに、氷河を覆う塵が多ければ多いほど、氷河が吸収する熱の量も多くなる。南米上空の塵の濃度は20世紀の間に倍増したが、その原因のひとつは農業や牧畜のための土地の開墾だ。

人々の水源が消える

氷河は人類にとって、重要な自然資源のひとつだ。ヒマラヤ山脈の氷河は、2億4000万人に飲用水を供給しているほか、食料生産にも使われており、19億人がこうした食料に依存している。南米でも、氷河はきわめて重要な水源だ。ペルー中西部のワラスなど一部の都市では、干ばつになると飲用水の85%以上を氷河から得ている。しかし、生きていく上で欠かせないこうした貴重な水源は、地球温暖化の影響が拡大するにつれ、ますます危ぶまれるようになっている。アンデス山脈の氷河は、過去50年間で急速に減少しているのだ。

南米の熱帯地域では、気候変動によって乾燥化がさらに進行すると予測される。乾いた気候になればほこり塵が増え、火災の発生件数も増加する。さらに、干ばつの頻度が増すことで、人々はますます氷河の水に依存する。

前述した研究が示すように、こうした貴重な水源は不幸にも、乾燥した気候と火災によって消滅がますます速まっている。黒色炭素が氷河を融解させるプロセスはきわめて複雑であり、アンデス山脈の将来的な氷河融解の予測に使われている気候モデルには今のところ、黒色炭素が組み込まれていない。つまり、将来の融解速度は過小評価されている可能性があると、研究論文著者たちは指摘している。

南米に住む人々が氷河を水源として依存しており、こうした氷河の融解速度は気候温暖化が進むとともに速まる可能性があることから、黒色炭素ならびにアルベド(光の反射率)の変化という複雑なメカニズムの研究が急がれる。

<参考記事>強欲な大人たちを批判する環境少女グレタが、実は金融業界のアイドル?
<参考記事>日本は環境政策で「セクシー」以上の牽引役を目指せ

(翻訳:ガリレオ)

The Conversation

Matthew Harris, PhD Researcher, Climate Science, Keele University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニュース速報

ビジネス

ドルほぼ横ばい、今週は企業決算や小売指標が注目=N

ビジネス

S&Pとナスダック下落、ハイテク大手の下げ重し

ワールド

原油先物1%安、コロナ感染者増加や米中間の緊張懸念

ワールド

「トランプ効果」は報道の自由にマイナス、国連報告者

MAGAZINE

特集:台湾の力量

2020-7・21号(7/14発売)

コロナ対策で世界に存在感を示し、中国相手に孤軍奮闘する原動力を探る

人気ランキング

  • 1

    「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

  • 2

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3.5m超える

  • 3

    科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める

  • 4

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊は…

  • 5

    生き残る自動車メーカーは4社だけ? 「ゴーン追放後…

  • 6

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 7

    中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで…

  • 8

    「香港国家安全法」に反対の立場を取ったトルドーに…

  • 9

    どこにも行かない台湾の「なんちゃってフライト」、…

  • 10

    ウイグル女性に避妊器具や不妊手術を強制──中国政府…

  • 1

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか

  • 2

    「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

  • 3

    国家安全法成立で香港民主化団体を脱退した「女神」周庭の別れの言葉

  • 4

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3…

  • 5

    科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求…

  • 6

    世界最大の中国「三峡ダム」に決壊の脅威? 集中豪…

  • 7

    中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで…

  • 8

    孤立した湖や池に魚はどうやって移動する? ようや…

  • 9

    東京都、新型コロナウイルス新規感染107人を確認 小…

  • 10

    ポスト安倍レースで石破氏に勢い 二階幹事長が支持…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2020年7月
  • 2020年6月
  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月