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頭と鼻を切られた牙なしスマトラゾウ 絶滅危惧種の密猟に警察も関与?

2019年11月21日(木)18時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)

毒殺、銃殺の可能性は否定

現場で検視にあたった獣医などによると、ゾウの死骸には銃弾を撃ち込まれた痕が見当たらないことから銃殺された可能性はないとみていることを明らかにした。

さらにロープで縛られたり、毒を盛られた可能性も現時点では少ないとみており、死因の特定を急いでいる。

スマトラゾウの死骸が発見されたのはAA社のプランテーションがある同県ギアム・シアク・クチール・バライ地区といわれる場所で自然保護局によると同地区には確認されているだけで約40頭のスマトラゾウが生息しているという。

リアウ州では10月15日にシアク県スンガイ・マンダウ地方でナイロン製ロープの罠(わな)にかかって身動きができなくなっていた1歳のオスのスマトラゾウが発見され、自然保護局などによって救出される事案も起きている。

この時に救出されたゾウは現在同州ミナスにあるゾウの保護施設で治療とリハビリテーションを受けているという。

最も絶滅の危惧がある種に指定

現存するゾウ目3種の一つであるアジアゾウの亜種スマトラゾウはスマトラ島にのみ生息するゾウで、世界自然保護基金(WWF)によると生息個体数は2400から2800頭と推定されている。

そして世界自然保護連合(IUCN)はスマトラゾウを絶滅の心配がある野生生物リスト(レッドリスト)の中でも最も絶滅の危険性が高い「近絶滅亜種」に指定して保護を呼びかけている。

しかしインドネシアではプランテーション開発を目的とした森林火災や森林開墾で、スマトラゾウをはじめとする野生生物の生息環境が深刻な影響を受けていることに加えて、今回のような象牙を目的としたような密猟者の存在が絶滅の危機を高めているという実態がある。

またインドネシア人の富裕層の間では絶滅危惧種や希少動物などをペットとして飼育する習慣もいぜんとして残っており、違法を承知で売買する密売業者が存在していることも事実である。

インドネシアでは人間に最も近い類人猿であるスマトラ島やカリマンタン島に生息するオランウータンをはじめ、スマトラ島のスマトラトラ、スマトラサイ、ジャワ島のジャワサイ、ジャワヒョウなどの野生動物が絶滅の危機に直面している。

しかしインドネシア政府は「自然保護と野生生物の保護」をことあるたびに訴えるものの、開発優先の現状に対し有効な対策を打てないのが現状といわざるをえず、国内外の自然保護団体などからは厳しい視線が注がれている。


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大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



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