最新記事

中南米

ボリビア政変で露呈した、中南米「左右分断」の深刻さ

Latin America Is Too Polarized

2019年11月18日(月)15時20分
オリバー・ストゥンケル(ジェトゥリオ・バルガス財団准教授)

中南米の課題の大半は、一国だけでは解決できない。それだけに、左右の対立激化は深刻な懸念材料だ。

では、中南米の指導者はなぜ、地域の危機にやたらと党派対立を持ち込むのか。ブラジルの場合、過激な左翼批判を展開し、社会主義政権に囲まれた国家という危機をあおることで、少なくとも一時的には国内の経済問題から国民の目をそらすことができる。

チリやエクアドルが自国の暴動を国際的な左派の仕業だとほのめかし、ベネズエラはモラレスの失脚を国際的な右派の陰謀と主張する──こうした例が示すように、国民の不満のはけ口として、大した根拠がなくても国外のスケープゴートを声高に非難する指導者はボルソナロだけでない。

大統領が最大のリスクに

そうではない時代もあった。2000年8月、ブラジルのフェルナンド・エンリケ・カルドゾ大統領は南米12カ国の首脳や米州開発銀行総裁が一堂に会する初の南米サミットを開催した。イデオロギーの違いはあっても、参加国は複数政党制による民主主義の推進や人権保護からインフラ面の連携、貿易障壁の解消、越境犯罪の撲滅までさまざまな地域課題を解決するには互いの協力が不可欠だという認識を共有していた。

もっとも今振り返ると、この頃が協調ムードのピークだった。1990年代から2000年代初頭にかけ、中南米諸国は新ルールや規範の構築に取り組んだ。政府間の対話を促進し、民主主義の後退を食い止めるために健全な圧力をかけ合う枠組みを構築した。

1995年のペルー・エクアドル国境紛争では、周辺国が仲介に重要な役割を果たした。2002年にベネズエラでチャベス政権に対するクーデターが勃発した際も、ブラジルが中心となって両陣営に対話を促した。

不介入と国家主権の尊重を重んじる中南米の歴史を考えると、こうした協力は注目に値する。それが受け入れられたのは、選挙で選ばれた政府を軍部から守るためだった。

ところが2000年代初頭になると、中南米の民主主義にとって最大のリスクは軍部ではなく、選挙で選ばれた大統領自身であることが明らかになり始めた。指導者が少しずつルールを骨抜きにすることで、ベネズエラやボリビアなどの民主主義は緩慢な死を遂げた。

ゆっくりとだが着実な独裁体制への移行は、国際社会の目が届かない水面下で進められた。ボリビアの民主主義が危機に瀕していたことは以前から明白だったが、徐々に自由が制限されるだけでクーデターが起きたわけではなかったため、対処できなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に

ワールド

トランプ氏、ウクライナ大統領と会談 トマホーク供与

ビジネス

NY外為市場=ドル、週間で対円・スイスフランで下落
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 9
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 10
    ビーチを楽しむ観光客のもとにサメの大群...ショッキ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中