最新記事

中南米

ボリビア政変で露呈した、中南米「左右分断」の深刻さ

Latin America Is Too Polarized

2019年11月18日(月)15時20分
オリバー・ストゥンケル(ジェトゥリオ・バルガス財団准教授)

ボリビアのモラレスは同じく左派政権のメキシコに亡命した CARLOS JASSO-REUTERS

<イデオロギー対立と時代遅れの枠組みが地域内の協力を阻み、民主主義を破壊する。今や中南米各国で最大のリスクは、大統領自身だ>

10月の大統領選で4選を果たしたものの、不正疑惑をめぐる抗議デモが激化して辞任に追い込まれた南米ボリビアのエボ・モラレス大統領。反米左派の急先鋒として知られたモラレスは11月12日、同じく左派が政権を握るメキシコに亡命した。だが、左右両極に分断された中南米諸国の指導者たちは、この危機を前にしても協調するどころか、自国の支持者向けのアピールに躍起になっている。

ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は、モラレスの辞任を軍事クーデターと批判し、背後でアメリカが糸を引いていると批判。メキシコやニカラグア、キューバの左派指導者もこれに同調した。さらに10月の大統領選を制したアルゼンチンの次期指導者アルベルト・フェルナンデスも、モラレスに辞任を要請した軍部を非難している。

一方、右派政権はモラレスの失脚を民主主義の勝利と評価する。ブラジルのエルネスト・アラウージョ外相はクーデター説を否定し、ボリビアの「民主主義への移行」を支持するとツイートした。

ベネズエラの難民危機、地域全般のインフラ不足、深刻化する越境犯罪──中南米は地域全体に影響の及ぶ課題を多数抱えているが、政治の分極化があまりに深刻で、こうした問題に協調して対処できない。ボリビアの政治危機は、それをあらためて浮き彫りにしている。

ボリビアの抗議デモの直前には、チリとエクアドルでも反政府デモが暴徒化していた。両国の高官は、キューバとベネズエラの工作員が背後でデモをあおったと指摘。だがそれが事実だとしても、決定的な役割を果たしたとは考えにくい。むしろ、チリでは物価高と公共政策への不満、エクアドルでは緊縮策への反対が国民を突き動かしたと言える。

しかしそうした各国の事情をいくら説明しても、右派はあらゆるデモを国際的な社会主義者の策略と見なし、左派は左派政権へのあらゆる批判を帝国主義者の陰謀と考える。両陣営の間の深い溝を象徴するように、極右指導者として知られるブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は、隣国アルゼンチンの大統領選に勝利した左派のフェルナンデスに祝辞を送るのを拒否。12月の就任式も欠席する意向だ。

ブラジルはたびたび地域の紛争の仲介役として建設的な役割を担ってきたが、ボルソナロ政権下で、そうした指導力を完全に失ってしまった。ボルソナロはBRICSと南米諸国のトップが集う会合もキャンセルした。理由は、他のBRICS諸国がベネズエラの野党指導者フアン・グアイドを暫定大統領と認めようとしないためだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

香港GDP、第3四半期改定+3.8%を確認 25年

ワールド

ロシアが無人機とミサイルでキーウ攻撃、4人死亡・数

ビジネス

インタビュー:26年春闘、昨年より下向きで臨む選択

ビジネス

ニデック、4―9月期純利益58%減 半期報告書のレ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中