最新記事
夏時間

「夏時間は脳に悪影響を及ぼす」、研究者が警鐘

2019年11月15日(金)16時50分
松丸さとみ

大した問題ではない、1日で慣れる、と人は思いがちだが...... Vizerskaya-iStock

<米ヴァンダービルト大学医療センターの睡眠の専門家たちが、「サマータイムは長期的にみて脳に悪影響を及ぼす」と警鐘を鳴らした......>

サマータイムは遺伝子レベルで悪影響

夏に時計の針を1時間進める夏時間(サマータイム)を導入している国は多い。時間を変えるタイミングは国によって異なるが、もっとも遅い米国も11月最初の週末に1時間戻し、今年のサマータイムが終了した。

日本でも東京オリンピックを機にサマータイムを導入しようという話が昨年の夏に盛り上がったのは記憶に新しい。オリンピックに合わせた導入は見送りとなったが、サマータイム導入案は完全になくなったわけではないようだ。

そんななか、米ヴァンダービルト大学医療センター(VUMC)の睡眠の専門家たちが、米医学誌JAMAニューロロジーに気になる解説記事を発表した。「サマータイムは長期的にみて脳に悪影響を及ぼす」という内容だ。VUMCの発表文によると、サマータイムは健康に悪影響を及ぼすという認識を高め、「サマータイムという習慣を終わらせる」ことを主張するために書いた記事だという。

VUMCによると、サマータイムで時間が変わることで睡眠のパターンが崩れ、それが概日リズム(いわゆる体内時計)のコア遺伝子のエピジェネティクスを変えてしまう可能性があるという。体内時計は、太陽の光によって実際の時刻と「同期」されることが分かっているが、サマータイムで1時間ずれることで、狂いが生じるのだ。

VUMCは、サマータイムになって時刻を変更することと、心臓発作や虚血性脳卒中などのリスクが高まることには関係があると指摘。さらに、サマータイムによる時刻の変化からの影響で、成人は睡眠が平均15〜20分短くなると説明している。この睡眠不足が原因となり、死亡につながるような事故も増える可能性があるのだという。

「1年のうち8カ月、体内時計が合っていない状態」

解説記事を執筆した睡眠の専門家の1人、ベス・アン・マーロウ教授(VUMC睡眠障害科の小児科医でもある)は、「サマータイムで時間が1時間ずれることなんて大した問題ではない、1日で慣れる、と人は思いがちだが、実は体内時計が狂ってしまっていることに気づいていない」と指摘する。

「年に2回、それぞれ1時間ずれるだけという話ではない。1年のうちの8カ月間、体内時計が合っていない状態になるということだ。サマータイムや、サマータイムと太陽の光との関係は、脳に深く根差したシステムである体内時計に多大な影響を及ぼすものだ。サマータイムは、睡眠と覚醒のパターンや、日中の注意力といった脳の機能に影響する」とマーロウ教授はVUMCに説明している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インフレ抑制へ当面の金利据え置き必要=米ダラス連銀

ビジネス

グーグル、水力発電の電力購入契約 30億ドル

ビジネス

日経平均は小幅続伸で寄り付く、米半導体株高が支え 

ビジネス

英財務相、金融業界の規則緩和さらに推進へ 「成長を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 5
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 6
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 7
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 8
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中