最新記事

老後資金

退職後に生活水準の低下をどう防ぐか?──リバース・モーゲージなど金融商品の活用について考える

2019年11月1日(金)17時00分
高岡 和佳子(ニッセイ基礎研究所)

nissei191029_RM4.jpg

結果は図表4の通りで、リバース・モーゲージの活用により生活水準を維持することは難しい。借入金利が1.5%と低い場合、中・高所得者層でグループ4(生活水準が10%以上低下する可能性が大きい)の出現割合が多少低下する。しかしながら、条件を満たせば割引金利が適用される一般的な住宅ローンと異なり、リバース・モーゲージの借入金利はおよそ3.0%(割引適用前の基準金利+α)と高く、1.5%という設定が現実的でない6。借入金利が3.0%前後ならほとんど効果はない上に、金利上昇による支払負担増加リスクを抱えることにもなる。前述の通り、リバース・モーゲージの大部分は変動金利型だが、仮に固定金利型を利用できるとしても、通常、借入金利は固定金利型の方が高いため、生活水準の維持には役立たない。

nissei191029_RM5.jpg

リバース・モーゲージによる効果が低いのは、生存中に資産が枯渇する確率を5%に抑えることを前提としているからである。資産が枯渇を招くファクターは長生きだけでなく、老齢厚生年金を受給できる夫の早世も資産の枯渇を招く。リバース・モーゲージは、契約者(通常、夫)が死亡しても、配偶者(通常、妻)が生存している限り元本返済の必要はないが、夫が死亡して年金受給額が減っても利息の支払いは免除されない。また一般の住宅ローンと異なり元本を返済しないので、借入金利3%の場合、夫婦の一方もしくは双方が長生きして借入期間が31年を超えると支払い総額が元本を超える。そして65歳女性が96歳以上まで生存する確率は20%を超える(図表5)。つまり、公的年金の一部を借入金の返済に充てる必要性があるほど多額な借入金を抱える世帯にとって、リバース・モーゲージへの借換えは目先の借入金返済負担を軽減する有効な手段とはなるが、長生きした場合や生存中に金利が上昇した場合には、生活水準の低下を招く。借入は一生の間での消費時期の前倒し手段に過ぎないのだから、長生きに備えた資産不足を補う手段にはならない。長生きに備えた資産が圧倒的に不足する場合は、やはり、就業期間を更に延長するか、長生きリスクをシェアすることで一世帯当たりの必要資産額を引き下げる仕組みが必要となる。

――――――――――
6 一般の住宅ローンのように、条件を満たせば借入金利を割引くことで、1.5%程度の商品もあるが、その条件は他のサービスの併用(購入)であり、老後の生活資金が不足する世帯は通常購入しない余裕のある世帯向けサービスである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米BofA、利益率16─18%に 投資家に中期目標

ワールド

トランプ関税の合憲性、米最高裁が口頭弁論開始 結果

ビジネス

FRB現行政策「過度に引き締め的」、景気にリスク=

ワールド

米、ICBM「ミニットマン3」発射実験実施 ロシア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中