最新記事

老後資金

退職後に生活水準の低下をどう防ぐか?──リバース・モーゲージなど金融商品の活用について考える

2019年11月1日(金)17時00分
高岡 和佳子(ニッセイ基礎研究所)

長生きリスクをシェアするという選択

最後に、長生きリスクをシェアする仕組みである長寿年金活用の効果を検証する。検証にあたり、長寿年金には妻が加入することとした。これは、想定する夫婦(老齢基礎年金に加え老齢厚生年金も受給できる夫と老齢基礎年金のみ受給する妻で夫婦は同年齢)にとって、老齢厚生年金を受給できる夫の早世が資産の枯渇を招く大きなファクターであるからだ。55歳から75歳迄月額2万1千円程度支払い、75歳以降は生存する限り年額24万円受け取る長寿年金を1口とし、各世帯にとって最も適した口数分加入するものとし、シミュレーションしてみた。結果、所得水準によらずグループ4(生活水準が10%以上低下する可能性が大きい)の出現割合が低下することが分かる。加えて、生活水準を落とす必要の無いグループ1(既に保有)及びグループ2(今後の資金計画次第で達成)の出現割合も、中・高所得者層を中心に増加することが分かる。通常、所得が高いほど多くの金融資産を保有するが、生活水準も高いため、退職後も生活水準を維持するためには多額の資産が必要となる。年収1,000万円以上の世帯の場合、7,000万円程度の資産が必要となるため、グループ1(既に保有)の出現割合が低い。所得が高い世帯である程度の資産があれば、長寿年金活用により生活水準の維持が一定程度可能となる。

nissei191029_RM6.jpg

世帯によって最適な金融商品は異なる

当レポートでは、高齢者向け金融商品としてリバース・モーゲージ及び長寿年金の効果を確認した。リバース・モーゲージへの借換えは目先の借入金返済負担を軽減する有効な手段ではあるが、長生きした場合や生存中に金利が上昇した場合には、生活水準を低下させざるを得ない。一方、長寿年金は目先の保険料支払負担は増えるが、長生きリスクをシェアする仕組みのために、長生きへの備えは各世帯で準備するより少なくて済む。もちろん長生きリスクをシェアする必要がない世帯、つまり資産が枯渇するリスクが比較的少ない世帯にとっては、投資信託などの金融商品の方が有用であろう。

このように老後のための資金の準備状況や所得水準、更には目先の生活が楽になれば備えは要らないと考えるのか、将来への備えは必要と考えるのかによって、最適な金融商品は異なる。このため、適切な情報提供やアドバイスを通じて、各世帯が適切に金融商品を選択できるように金融機関等がサポートする仕組みが極めて重要である。当レポートが各世帯のより良い選択の一助となることを願う。

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポートからの転載です。

Nissei_Takaoka.jpeg[執筆者]
高岡 和佳子
ニッセイ基礎研究所
金融研究部主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米BofA、利益率16─18%に 投資家に中期目標

ワールド

トランプ関税の合憲性、米最高裁が口頭弁論開始 結果

ビジネス

FRB現行政策「過度に引き締め的」、景気にリスク=

ワールド

米、ICBM「ミニットマン3」発射実験実施 ロシア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中