最新記事

日本経済

中小企業の「2025年問題」──根深い事業承継問題

2019年11月7日(木)13時50分
中村 洋介(ニッセイ基礎研究所)

かつては子や親族が事業を承継するケースが多かったが、親族内承継が必ずしも当たり前ではなくなってきた。事業承継のリスクや不安から、安定した会社勤めを選ぶ経営者の子・親族も多い。最近は、役員・従業員への承継や、M&A等(株式譲渡や事業譲渡等)による承継が増加傾向にある。こうした後継者確保の難しさ、親族外承継のニーズの高まりもあって、中堅・中小企業のM&A仲介を手掛ける株式会社日本M&AセンターのM&A成約件数は堅調に伸びている(図表7)。地方銀行への事業承継への相談件数も増加傾向にあり(図表8)、事業承継問題はM&A仲介業や地方銀行、コンサルティング会社等にとっては、大きなビジネスチャンスになっている一面もある。

Nissei191105_7_8.jpg

政府も、成長戦略において今後10年程度を「集中実施期間」とする等、取組みを強化する方針だ(図表9)。例えば、「平成30年度税制改正」では、事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する事業承継税制について、「今後5年以内に特例承継計画を提出し、10年以内に実際に承継を行う者」を対象として抜本的に拡充する3(図表10)。また、2018年7月に中小企業等経営強化法、及び中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の一部改正が施行され、M&A等再編による事業承継への措置や、親族外承継時の資金ニーズへの対応が追加された(図表11)。

Nissei191105_9_11.jpg

まだまだ後継者が決まっていない企業も多い中、政府の支援策や、M&A仲介業・地方銀行といった民間のサポートで、事業承継問題がどこまで好転するのかに注目が集まっている。

生産性向上に繋げられるか

経営者の高齢化、事業承継の問題は今になって叫ばれているわけではない。2004年度版の中小企業白書にも、経営者の高齢化、後継者難が言及されている。それから約14年、経済環境は改善したが、事業承継問題は依然として大きな課題として残っており、解決の難しさを改めて認識させられる。

――――――――――
3 中小企業庁ウェブサイトよりhttp://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2018/180402shoukeizeisei.htm

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB3会合連続で0.25%利下げ、 反対3票 来

ビジネス

FRBに十分な利下げ余地、追加措置必要の可能性も=

ビジネス

米雇用コスト、第3四半期は前期比0.8%上昇 予想

ワールド

米地裁、トランプ氏のLAへの派兵中止命じる 大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中