最新記事

中国

習近平が言ったとする「(分断勢力の)体はつぶされ骨は粉々に」を検証する

2019年10月15日(火)19時50分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

かてて加えて、トランプ大統領が10月7日、中国当局による新疆ウイグル自治区でのウイグル人弾圧に関連し、28の中国政府機関や企業への禁輸措置を発表した。ハイクビジョンやセンスタイムなど、顔認識に重点を置いた監視カメラ技術に長けた中国のハイテク企業が対象となる。背後にあるのは5GやAIなどの米中攻防だ。香港問題ではない。

この大きな世界的流れを見落とす誤導を、一部の日本メディアが誘導していることを憂う。

なお、ここのところ『米中貿易戦争の裏側』(毎日新聞出版、11月9日発売予定)の執筆とゲラ校正に没頭し、10月1日の中国の建国70周年記念などに関する論考を書く時間を奪われてしまった。詳細は当該著作の中で考察している。コラム発表を中断していることをお許しいただきたい。

(なお本稿は中国問題グローバル研究所のウェブサイトからの転載である。)

 追記1:日本語で「粉骨砕身」と言ったときに、決して誰も「本当に骨を粉にして身を砕く」とは思わないのと同様、「身を粉(こ)にして働く」と言ったときに「本当に体を粉になるまで叩き潰す」とは考えない。この「身を粉にして」と「粉骨砕身」はほぼ同義語で、その原型が習近平が使った「粉身碎骨」である。こちらは「粉身」とあるので、まさに日本語の「身を粉にして」の語源とみなすべきだろう。

 追記2:習近平の言った言葉を中国語で書くと「結果只能是粉身碎骨」で、他動詞的な「譲他」(そいつを~してやる)という文字や「被」(~される)という文字がない。つまり「やっつけてやる」に相当する言葉がないのだ。従って唯一日経新聞の<習氏、中国分裂勢力「最後は粉々に」>の自動詞的表現「最後は粉々に」が正しい。「被」という一文字さえあれば「徹底して叩き潰してやる」と訳すのが最も適切だが、他動詞的作用を示す文字は存在していない。

 追記3:日本は報道するニュースの対象が限定されている(特定のテーマに方向づけられている)という特徴を持っている。従って、同じ共産主義の国家ネパールとの間に、どれだけチベット人に関する激しい闘いが展開しているか等、誰一人関心を持たない。これに関して、Bitter Winterの日本語版<習近平主席がネパールで敗北を喫して脅迫「反対者は粉砕する」>をご覧になると、「チベット難民の中国送還を目的とした犯罪人引渡し条約の調印をヒマラヤの王国が拒否したため、中国の主席は怒りをあらわにした」という位置づけが分かってくる。但し、英語版の表現を見たためだろうか、誤訳と共に、事実として存在しない「主席は香港に言及しながら」という、事実検証を怠っている表現があるにはある。しかしチベット問題がいかに深刻かを理解するのには有用な記事だ。

 追記4:RFIが台湾時報の報道を転載して、中国語で関連記事を書いている。これは非常に正確だ。これらを比較すると以下のことが分かる。すなわち、「英語に翻訳した報道」が間違っているため、「その日本語訳を頂戴した報道」は同様のミスをしており、「中国語から日本語へ」あるいは「中国語から中国語へ」という種類の報道にはミスがないということだ。因みに台湾時報の報道を転載したRFI記事をクリックして「香港」という文字があるか検索してみると、「香港には言及していない」ことを確認することができる。台湾側が報道しても、そこには「香港」という文字はないのである。

 追記5:中国はチベット、ウィグル、台湾、香港問題...と、数々の「民主」を中心とした問題を抱えているが、日本では香港問題にしか焦点を当てていないので、ある意味、「情報の孤島」になっている。アメリカは違う。中国と真の覇権争いをしているので、視点が多角化している。アメリカと闘っている中国も自国がどの角度からやられるかを認識している。その意味でヨーロッパの一国であるチェコのプラハ市長が「一つの中国」を否定したのは、決定的なほど大きな痛手だ。なぜ中国にとって「ヨーロッパ」が戦略的に重要かは、来月初旬に出版する『米中貿易戦争の裏側』でギャラップ社のデータを用いて分析した。

この筆者の記事一覧はこちら≫

endo2025.jpg
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中