最新記事

ラグビーワールドカップ

ラグビー日本代表「多様性ジャパン」は分断と対立を超える

The United Brave Blossoms

2019年10月11日(金)16時00分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

具の見せ場はアイルランド戦、前半35分にやって来た。自陣22メートルライン付近、相手ボールのスクラムである。私の取材ノートには「ここで取られたら厳しい」とメモが書いてあった。試合後にラグビー専門ライターに聞いても「試合の分かれ目」だった場面だ。稲垣、堀江、具、トンプソンルーク、姫野和樹、ラピース......。全員が一丸になって押し返し、反則を奪う。レフェリーのジャッジが下った瞬間、具は吠えた。

19年9月21日――。ロシア戦から一夜明けた東京都内のカフェで、来日した東春に会うことができた。半袖シャツからのぞく、ぐっと太い二の腕が往年の名選手であることを物語る。東春はインタビューも日本語でこなす。子供たち(智元の兄はホンダヒートで活躍する智允〔ジユン〕)は日本に送り出した。

mag191010-rwc03.jpg

具の父親の東春(左)と兄の智允 MICHINORI MIAKE

「僕は子供には厳しく接してきました。トレーニングも一緒にやった。楽しい環境でラグビーをしてほしいと思って、日本に送りました。智元は本当に真面目な子で、子供の時から言われたことを全部こなしてましたよ。今では真面目過ぎるくらいだから、逆に僕が『もっと楽しめ』って言ってます」と笑った。

もっとも、言葉に込められた笑いは半分で、もう半分は大舞台で気負い過ぎてしまわないかが心配という親の情だった。

ワールドカップの盛り上がりの一方で、日韓の政治は冷え込み、日本国内では韓国、さらに韓国人へのバッシングが続くなかでの来日になった。

「息子に言ったのは、おまえはラグビーで結果を出せばいい。ほかは気にするなということ。ラグビーファンは応援してくれているんですよ。(OBである)延世大学のLINEグループがあるんですけど、みんな智元が日本代表に選ばれたことを喜んでくれて、応援するメッセージが届きました」

国籍がどこかは関係なく、代表に選ばれることが誇りである。熱心なラグビーファンの思いはどの国でも同じなのだろう。インタビューの最後に、今の日本代表に外国出身者が多いことをどう考えるかを聞いてみた。日韓両国の指導者と交流する東春は、別の角度からダイバーシティーの効用を語ってくれた。

「彼らがいるから、日本ラグビーのレベルは上がっているんですよ。日常的にレベルの高い選手とポジションを競い合っているから、日本人選手のレベルは確実に上がっていますよ。日本人だけで競争していても、ここまでレベルは上がらなかったと思いますよ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中