最新記事

ラグビーワールドカップ

ラグビー日本代表「多様性ジャパン」は分断と対立を超える

The United Brave Blossoms

2019年10月11日(金)16時00分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

キーワードは競争だ。競争は結果としてフィールドに立つ勝者と敗者とを分かつ。だが、敗者はただ敗れるだけではない。競争は1人ではできない。敗者がいるからこそ、勝者は競うことができ、より質の高いプレーを求めていく。こうして、チームのレベルは底上げされていく。

外国出身選手は単純にポジションを奪う存在ではない。共に競い合い、日本ラグビーを豊かなものにしていく仲間である。この考え方は社会にとっても多くの示唆を与える。「ラグビーは良いところは、やっていると世界中に友達ができること。智元は幸せ者ですよ」

力強い握手を交わし、父は滞在先の三重県鈴鹿市――ホンダの本拠地――へ戻っていった。

結び直す力を証明する

哲学者の東浩紀は政治と文学の違いについて、こんな指摘をしている。「政治は友と敵を分割する。文学はそれをつなぎなおす」(『AERA』19年6月3日号)。

それはラグビーにも当てはまる。ラグビーは分断や対立を強めていく政治の力とは違う力で、社会をつなぎ合わせている。日本と対戦したアイルランドを見ればいい。政治的には南北に分かれ、根深い対立の歴史を抱えている。それでもラグビーでは、分断とは関係なく1つのチームで臨む。政治とは違う、結び直す力を証明し続けてきた事例と言えるだろう。彼らから学べることは、もう1つある。国家間の政治対立をスポーツや社会に持ち込むことの愚かさだ。

勝利を収めたロシア戦後の記者会見で「ダイバーシティーの力は見せることはできたか」とリーチに聞いてみた。答えはひとこと、「まだまだ」。チームの可能性を信じているキャプテンによれば、アイルランド戦の出来もまだ「75点」だという。リーチが達成感を感じたとき、代表の姿はどんなものになり、この社会にどのようなインパクトを与えるのか。ダイバーシティーを体現する日本代表の「意味」は、より重要なものとなり、大会後半を迎える。

<本誌2019年10月15日号掲載>

20191015issue_cover200.jpg
※10月15日号(10月8日発売)は、「嫌韓の心理学」特集。日本で「嫌韓(けんかん)」がよりありふれた光景になりつつあるが、なぜ、いつから、どんな人が韓国を嫌いになったのか? 「韓国ヘイト」を叫ぶ人たちの心の中を、社会心理学とメディア空間の両面から解き明かそうと試みました。執筆:荻上チキ・高 史明/石戸 諭/古谷経衡

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

来年のIPO拡大へ、10億ドル以上の案件が堅調=米

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ビジネス

ノバルティスとロシュ、トランプ政権の薬価引き下げに

ビジネス

中国の鉄鋼輸出許可制、貿易摩擦を抑制へ=政府系業界
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中