最新記事

ラグビーワールドカップ

ラグビー日本代表「多様性ジャパン」は分断と対立を超える

The United Brave Blossoms

2019年10月11日(金)16時00分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

さまざまなルーツを持つ日本代表が強豪アイルランドを破った(写真は日本代表のリーチマイケル主将) 日刊スポーツ/AFLO

<多国籍チームが象徴する日本の現在地と、その躍進が社会を変える可能性>

イギリスの歴史家、トニー・コリンズは大著『ラグビーの世界史』(邦訳・白水社、2019年)の結論に、およそ学者とは思えないほど感情を込めた一文を添えている。「ラグビーはそれをプレイし、観戦するすべての人のために、情熱、プライド、意味を生み出してきた」と。

ラグビーは意味を生み出す。ならば、このような問いが成り立つ。世界でおよそ強豪とは言えない日本がラグビーワールドカップで、強豪アイルランドを打ち破った一戦の意味はどこにあるのか――。

いくつか考えることができる。前回大会で南アフリカを破ったのに続き、世界を驚かせる大番狂わせの主役になった日本は世界の強豪国に近づいた。長らく低迷してきた日本のラグビー人気に、また火を付けることになる。より魅力的なスポーツコンテンツとしての価値を高めた。いずれもそのとおりだが、ここではラグビーそのものよりも、ラグビー日本代表というチームが映し出す理想像に注目したい。

私が考える「意味」はこうだ。日本社会にとって勝利の「意味」、それは排他性とは真逆のベクトル、すなわち多様性の力を感じさせたことにある。

広がりつつある「日本人」

ラグビー日本代表が発表されるたびに繰り返されてきたのが、「外国人が多過ぎる」という批判だった。確かに今大会もメンバー31人中、実に15人が外国出身者である。批判はいくつか大事な視点を見落としている。

前提としてラグビーでは、代表の条件に国籍は入っていない。日本での居住年数など一定の条件を満たせば、どこで生まれても、どんなルーツであっても日本代表になることができる。国籍に関係なく、開かれているのがラグビーの世界だ。

他のスポーツが採用する国籍主義ではなく、協会主義と呼ばれているルールの原点は、ラグビー発祥の地であるイギリスにある。19~20世紀前半に繁栄を誇った大英帝国で、植民地出身者がどこの代表になるのか。議論が重ねられた結果、国籍よりも出生地、居住を条件として重んじるルールが定まってきた。

帝国発祥のルールは、100年以上の時を経て、グローバル化が進行した日本で、新しい「意味」を持つことになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米連邦高裁、解雇された連邦政府職員の復職命令に否定

ワールド

一定月齢以下の子どものコロナワクチン接種を推奨=米

ワールド

インド、綿花の輸入関税を9月末まで一時停止

ワールド

中国のレアアース磁石輸出、7月は6カ月ぶり高水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 6
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中