最新記事

イスラエル

対イラン代理戦争も辞さないネタニヤフの危険な火遊び

Netanyahu’s Dangerous Game

2019年9月11日(水)18時45分
ジョナサン・ブローダー(外交・安全保障担当)

新たな戦争を回避したいネタニヤフも、ヒズボラとの直接対立は避けてきた。しかし総選挙を数週間後に控えた8月24日、ネタニヤフはヒズボラとの暗黙の了解を破った。

全面対決と紙一重の戦略

この日、イスラエルはシリアの首都ダマスカスの南東に位置するアクラバの建物を空爆。イランの革命防衛隊などがここから無人機を使って攻撃を仕掛けようとしていたからだと主張した。翌25日には、レバノンの首都ベイルートにあるヒズボラの施設に無人機が飛来して爆発する事態が発生した。

イスラエル政府はベイルートの攻撃についてはコメントしていないが、同国のハーレツ紙は「複数の無人機がヒズボラのミサイル計画の重要拠点を攻撃した」と報じた。ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララは、攻撃はイスラエルの仕業だと非難。「国境地帯のイスラエル兵たちは今夜から、われわれの報復に警戒せよ」と宣言した。

今回の攻撃は限定的で、双方が戦争の拡大を避けたがっているようだった。イスラエルはレバノン南部に向けて砲弾約100発を発射したが、全て空き地に着弾し、死傷者はいなかった。

だがナスララは、ベイルート攻撃への報復を誓っている。それが引き金となって紛争が拡大し、ネタニヤフの再選のもくろみが崩れ、駐イラク米軍を危険にさらすかもしれない。

米政府当局者によると、マイク・ポンペオ国務長官はネタニヤフとレバノンのサード・ハリリ首相に自制を求めた。だがネタニヤフはイスラエル軍がシリアを攻撃したと発表して事態を悪化させたと、歴代国務長官の中東顧問を務めたアーロン・デービッド・ミラーは言う。

「安全保障を売りものにするネタニヤフのイメージは確かに強化されるだろう」と、ミラーは言う。「しかし再選のためのイメージ戦略は、ヒズボラとの全面対決と紙一重だ。ヒズボラの攻撃でイスラエル人の死者が出た場合、ネタニヤフは責任を問われる。そして、ヒズボラとの戦いをエスカレートさせる」

8月25日の3度目の攻撃はイラク国内を標的にし、在イラク米軍にも影響を与えた。無人機がシリアとの国境近くのイラク国内で輸送隊を攻撃し、親イラン派民兵組織「人民動員隊」の指揮官などが死亡した。

米軍に矛先が向かう恐れ

かつてネタニヤフは、イスラエルを攻撃するために領土の使用を許可した全ての国に苦しみを与えると警告した。「誰かがなんじを殺すために立ち上がったら、先にその人物を殺せ」と、彼はユダヤ教聖典の有名な一節を引用してツイートした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中