最新記事

キャリア

社会人になってからの「学び直し」でさらに広がる教育格差

2019年9月11日(水)16時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

リカレント教育には教育格差を縮小させる機能も期待されているが Feodora Chiosea/iStock.

<社会変化のスピードが速い現代では、社会人も絶えず新しいことを学び続けなければならない>

近年、リカレント教育の普及が目指されるようになってきた。リカレントとは「還流」のことで、教育期と仕事期の間を往来すること、社会に出た成人が再び学校に戻って学び直すことを意味する。

今の社会は変化のスピードが速く、人は絶えず新しいことを学び続けないといけない。企業内の(閉じた)研修だけでは十分でなく、外部の機関においてどこででも通用する汎用性のあるスキルの習得も求められる。大学等の学校はこれに寄与すべきで、今年度からは職場での即戦力となる人材を育成する専門職大学が創設されている。仕事とは別の分野の学びへの欲求もあるはずだ。

学校で学ぶ成人の数は増えている。30歳以上の通学人口は1990年では6万1077人だったが、2015年では12万1018人となっている(総務省『国勢調査』)。この四半世紀でほぼ倍増した。学びへの欲求の高まりと同時に、生き残りのために大学が社会人に積極的に門戸を開くようになっていることもあるだろう。

成人の通学率は、大学等が多く立地する都市部で高い。都道府県別では東京都が突出して高いが、この大都市内部でみると気になる傾向がある。都内23区のアラフォー年代の通学人口率を地図にすると<図1>のようになる。当該年齢人口1000人につき、学校に通っている人が何人いるかを示している。

data190911-chart01.jpg

大人の通学率は西高東低で、濃い色の区が固まっている。その中には、文京区や世田谷区のような住民の学歴構成が高い区が含まれる。都内23区のデータで、アラフォー年代の大卒住民比率と通学率の相関を見ると、有意なプラスの相関関係が認められる。

この事実から示唆されるのは、既に高い学歴を得ている人たちがリカレント教育を受けていることだ。リカレント教育は、子ども期に高い教育を受けられなかった人が後からそれを受けることで、教育格差を縮小させる機能も期待されている。しかし現実はその逆で、教育格差の拡大再生産が起きてしまっている可能性がある。

アメリカの教育学者リチャード・E・ピーターソンは「教育とは麻薬のようなものだ」と述べ、「education more education」の法則を唱えた。高い教育を受けている人ほど、さらに別の教育(教養)を欲するという意味だ。今の日本でもこの法則が作用しているのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中