最新記事

災害

ハリケーン・ドリアン、絶滅しかけていた鳥に最後の一撃?

Hurricane Dorian Probably Just Made a Species of Bird Go Extinct

2019年9月5日(木)15時30分
アリストス・ジョージャウ

最強ハリケーン・ドリアンの犠牲になったのは人間だけではなかった(9月2日、バハマ北部のアバコ島) Dante Carrer-REUTERS

<バハマ諸島に最強のハリケーン・ドリアンがたらした被害は、「生態学上の大災害」でもあった可能性が高い>

超大型ハリケーン「ドリアン」はバハマに壊滅的な被害をもたらした。家は壊れ、少なくとも20人が死亡したが、犠牲になったのは人間だけではないようだ。ドリアンの影響で、バハマ諸島に生息する珍しい鳥が絶滅したかもしれないと専門家は言う。もっとも、この土地固有の鳥、バハマゴジュウカラは、ハリケーンが来る前から人間の手でぎりぎりまで追い詰められていた。

英イーストアングリア大学(UEA)のダイアナ・ベル教授(保存生物学)は、ハリケーン・ドリアンはバハマ北部の人々にとって「人道的危機をもたらす大災害」であると同時に「生態学上の大災害」も引き起こした可能性が高いと指摘する。希少種の鳥をはじめとする野生生物が生息する松林が大きな被害を受けたからだ。

<参考記事>病気で絶滅!? バナナは、もう食べられなくなるのか?
<参考記事>地球には「大絶滅」がもう一回あった

「カテゴリー5の最強ハリケーンであるドリアンは、北部のアバコ島に上陸し、長い間そこに留まった。暴風雨は長時間続き、貴重なカリビアマツの林に最大級の被害をもたらした」とベルは言う。

だがカリビアマツの林に暮らすバハマゴジュウカラは、UEAが過去に行った調査の時点ですでに絶滅の瀬戸際にあった。ベルは、ドリアンがこの小さな鳥にとって最後の一撃になったかもしれないと指摘する。

14年間で1800羽から1~2羽に

「2016年にハリケーン『マシュー』がバハマ諸島を襲った後、バハマゴジュウカラは姿を消し、絶滅したと思われた。それが2018年の調査で再発見されたが、その時点で1~2羽しか残っていないのではないか、と言われていた」とベルは言う。「生息地が大きな被害を受けるなかで、小さな鳥が生き抜くのはとても難しい」

webs190905-bahama02.jpg

研究者たちによれば、バハマゴジュウカラは2004年時点で推定1800羽いたものの、その後激減した。バハマゴジュウカラは成長した松の木にしか巣をつくらないのに、バハマ諸島の松林は伐採や観光目的の開発、ハリケーン被害などでどんどん削られてしまったからだ。

「気候変動で過酷な気象条件が増えるなか、異常気象がこれらの固有種に及ぼす影響を軽減し、復活させていかなければ」とベルは言う。

バハマ諸島では、ゴジュウカラのほかにも、ツバメやムシクイなどの固有種が絶滅の危機にさらされている。

「バハマムシクイなど松林に暮らすその他の種が、ドリアンの強風や大雨、高潮の中で生き残ることができたのかどうかも調べなくてはならない」とベルは述べた。

(翻訳:森美歩)

20190910issue_cover200.jpg
※9月10日号(9月3日発売)は、「プーチン2020」特集。領土問題で日本をあしらうプーチン。来年に迫った米大統領選にも「アジトプロップ」作戦を仕掛けようとしている。「プーチン永久政権」の次なる標的と世界戦略は? プーチンvs.アメリカの最前線を追う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

バフェット氏、傘下鉄道会社BNSFによるCSX買収

ワールド

トランプ米大統領、シカゴに部隊派遣の可能性否定せず

ワールド

トランプ氏、韓国大統領と会談 金正恩氏と年内会談望

ビジネス

米国株式市場=反落、ダウ349ドル安 エヌビディア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中