最新記事

BOOKS

児童虐待は検証率「わずか5割」 どうすれば悲劇を断ち切れるのか

2019年9月19日(木)11時20分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<目黒区の結愛ちゃん事件、千葉県野田市の心愛さん事件......刑法犯罪が減少する中、児童虐待など家族内の事件は急増している>

『孤絶――家族内事件』(読売新聞社会部・著、中央公論新社)は、2016年12月から2018年1月までの長期連載となった読売新聞「孤絶・家庭内事件」を元にした書籍。

「まえがき」において著者はまず、事件報道のある"現実"を指摘している。家族内で起きた事件は「事件性」が薄いと判断されがちであるため、報道に際しては多くの死傷者が出たような大事件や大災害、あるいは大型経済事件や著名人が当事者になるような事件が優先されてしまうということである。


 刑法にも親族間の特定の犯罪については罰しないという特例があります。これは「法は家庭に入らず」という理念、国家は家庭内の問題には介入しないという考え方からきています。しかし、近年、国や公的機関の不介入と対応の遅れが痛ましい家族内事件に結びつくような事例が相次いでいます。刑法犯罪が毎年減少する中で、家族内の深刻な事件が急増しているのはなぜか。埋もれた事件を掘り起こし、当事者の生の話を聞いて、その疑問に答えていくことには大きな社会的意義があるはずだと私たちは考えました。(2ページより)

こうした考え方に基づき、社会部を中心として社会保障部、国際部、写真部に籍を置く19人もの記者が事件当事者、関係者から話を聞いている。そして、介護問題に焦点を当てた「介護の果て」、障害や引きこもりなどの問題を抱えた子供とその親との関係性を浮き彫りにした「親の苦悩」、孤独死の現実を明らかにした「気づかれぬ死」などの5つのテーマごとに、事件の背景を浮かび上がらせているのである。

当然のことながら、背後関係がどうであれ、それぞれの事件が重たく、そして悲惨だ。そして、そんな中でも特に心を打たれたのは、昨今も大きな話題となっている児童虐待の事例だ。本稿ではその問題をクローズアップしてみたい。

児童虐待による子供の死亡例は、都道府県や政令市など、児童相談所を設置する自治体が2012〜15年度に把握しただけでも255件に上るという。

なぜ子供たちを救えなかったのかを考えるにあたり、欠かせないのは死亡に至った事例の検証である。ところが読売新聞の17年の調査によれば、225件のうち、自治体が検証を実施していたのはわずか5割だというのだから驚かされる。

もちろん厚生労働省は、児相を設置する全69自治体に全ての死亡事例を検証するよう求めてはいる。しかし、警察など関係機関との情報共有の難しさ、あるいは職員の不足などから検証が進んでいないというのである。

以前、『ルポ 児童相談所:一時保護所から考える子ども支援』を取り上げた際、「児童相談所=悪」というイメージが肥大化しすぎなのではないかと書いたことがある(児童相談所=悪なのか? 知られざる一時保護所の実態)。基本的には憎しみを持って子供と向き合っている職員などおらず、各人がギリギリの状態で子供たちと向き合っているということだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中