最新記事

気候変動

地球の気温上昇を2度未満に抑える人類の戦い

UN CLIMATE SUMMIT CURTAIN RAISER

2019年9月20日(金)15時00分
マーク・ハーツガード(ジャーナリスト)

magw190919_climate2.jpg

断熱シートで覆われたスイスのローヌ氷河 DENIS BALIBOUSE-REUTERS

「演説ではなく、具体案を」。グテレス事務総長は何カ月もの間、各国首脳にそう訴えてきた。他の会議でも言っていることだが、グテレスは今回のサミットを一種の「体験発表会」にしたいと考えている。温室効果ガス排出量を削減し、既に明らかになっている問題を解決するための具体的で再現可能な実例を共有する発表会だ。

そのため、今回のサミットはパリ協定の明らかな欠陥を取り上げる。排出削減を各国の意思に任せたため、2015年以降も世界の排出量は増加を続けている。このままだと地球の気温は3~5度の上昇に向かい、現存する文明を破壊しかねない、と科学者は警告する。

アメリカが地球温暖化を加速させている今、気温上昇を「2度を大きく下回る」数値に抑えるという目標をいかにして達成するか。

「特定の国だけでなく、多くの国でより高いレベルの政治的意志が必要だ」。今回のサミットで事務総長特使に任命されたメキシコの外交官ルイス・アルフォンソ・デアルバはそう訴えている。「アメリカの州や都市、多くの民間企業が再生可能エネルギーへの移行を目指して尽力していることに、非常に感銘を受けている。現政権がパリ条約からの離脱を選ぼうとも、アメリカは問題の解決に貢献すると確信している」

昨年の気候サミットでは、当時のカリフォルニア州知事ジェリー・ブラウンが2045年までに州内で温室効果ガスの排出ゼロを実現するという行政命令に署名したことを発表した。同州は数々の大国と肩を並べて世界5位の経済規模を誇る。今年はロシアのGDPにほぼ匹敵する経済力を持つニューヨーク州で、2040年をめどに発電部門の排出をゼロにする法律が成立した。各国の自治体220以上が参加する「2度未満連合」は合計で世界経済の43%を担う。

しかし依然として急速な気温上昇は続いている。昨年10月の国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書「1.5度の地球温暖化」によると2050年の排出ゼロを目指して2030年までに45%削減しないと1.5度よりも上昇してしまう。

中国の国外進出にも注文あり

45%削減が実現できない場合、特に貧しくて立場の弱い国々でおびただしいしい数の人が窮乏と死の危険にさらされる。そして地球温暖化の進行は止められない可能性が増す。IPCCによるとそれほど大幅な削減をするためには人類史上に前例のない速度と規模で世界中のエネルギー、農業、運輸、その他の産業部門を変貌させなければならない。

だから気候問題でアメリカと並ぶ超大国の中国も努力しなければならない。2015年のCOP21を前に中国が国内の石炭火力発電所を多数閉鎖したときは喝采を浴びた。だが最近また石炭燃焼が増大。しかも中国政府は外国での石炭火力発電所の新設に資金を提供している。アジアから中東、アフリカ、ヨーロッパへと連なる壮大な経済圏構想「一帯一路」を支える港湾設備や鉄道敷設などインフラ整備のためだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり

ビジネス

米9月製造業生産は横ばい、輸入関税の影響で抑制続く

ワールド

イスラエル、新たに遺体受け取り ラファ検問所近く開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中