最新記事

イギリス

なぜ英ジョンソン首相はエリザベス女王に演説させるのか?

2019年8月30日(金)12時59分

ジョンソン英首相は議会開会を正式に宣言する女王演説を10月14日に実施するよう求めた。写真は2017年6月の議会開会に出席したエリザベス女王(2019年 ロイター)

ジョンソン英首相は28日、議会開会を正式に宣言する女王演説を10月14日に実施するよう求めた。これは欧州連合(EU)離脱予定日である31日のわずか数週間前で、離脱反対派の動きを封じ込めるのが狙いだとの批判が噴出した。

首相は批判について「完全な間違い」だと一蹴し、女王演説により内政の計画を示せるとともに、議会で離脱問題を討議する時間も十分に確保できると反論した。

◎女王演説とは何か

政権が今後1年間の計画を示すのに使われる。通常、主な優先事項と政府が可決を目指す法案が発表される。

政府が起草した演説をエリザベス女王が読み上げる。女王演説は議会開会式典のハイライトであり、新たな会期の開始を宣言するもの。

◎ジョンソン首相の動きは異例か

表向きは異例ではない。

通常、女王演説は毎年行われる。メイ前首相の後任として7月に就任したばかりのジョンソン氏には、同氏独自の優先法案があるはずだ。

EU離脱前に大量の法案を処理する必要があるため、現在の会期は既に2年以上続いており、最後に女王演説が実施されたのは2017年。政府は、とっくに新たな計画を示す必要があったとしている。

議会は通常、女王演説前の数日間は閉会となる。近年の閉会期間は5─20日。

◎一部の人々はなぜここまで憤慨しているのか

理由はタイミングだ。

英国は今後数週間中に、EUの離脱方法、場合によっては離脱の是非という、ここ数十年間で最も重要な戦略的決定を下す必要がある。

女王演説を10月14日に設定したことで、ただでさえ少ない議会審議日数がさらに何日間か削られることになる。

ジョンソン氏はEUとの合意に基づいた円滑な離脱を望むとする一方、合意が得られなくても離脱する構えを示している。

議会では「合意なき離脱」に反対する勢力が過半数をわずかに超えている。この勢力は、議会手続きを利用して合意なき離脱を阻止し、ジョンソン氏にEUに延期要請するよう迫りたい考えだ。

◎次に何が起こるか

議会は夏休みを終えて9月3日に再開し、少なくとも1週間は審議を行う。

政府は9月9日に閉会の手続きに着手すると表明した。女王演説前の最後の審議はその直後になる見通しだが、まだ確認されていない。

つまり「合意なき離脱」反対派が計画を実行に移せる時間は数日間しかない。

女王は10月14日に演説を行い正式に議会再開を宣言する。その後、演説内容について数日間審議が行われ、21、22の両日に採決が実施される。

この採決で勝てるかどうかが、ジョンソン氏の統治能力の決定的な試金石となる。

しかし仮にジョンソン氏が敗れ、続いて内閣不信任決議案が可決されたとしても、同氏は辞任と総選挙を10月31日以降まで遅らせることが可能だ。

女王演説と採決の間に、ジョンソン氏はブリュッセルを訪れEU離脱の新条件で合意するための土壇場の交渉を行う。EU首脳会議は10月17、18両日に予定されている。

[ロンドン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗弊インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円

ワールド

パレスチナ自治政府、ラファ検問所を運営する用意ある

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ハマス引き渡しの遺体、イスラエル軍が1体は人質でな
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中