最新記事

香港デモ

出口の見えない香港デモ最前線 「秩序ある暴力」が市民の支持広げる

2019年8月26日(月)10時30分

民主化運動に揺れる香港では、平和的な抗議活動と並び、正当な政治表現としての「実力行使」の考えが、次第に主流になりつつある。写真は21日、香港の地下鉄駅で警察と対峙する抗議活動参加者(2019年 ロイター/Tyrone Siu)

パンと名乗る香港の男性は、自分のことを中流層の平和的な学生だと考えている。だが6月初め以降、彼はこの街の自由を守るためだとして、自分の身を危険にさらしてバリケードを築いたり、警官にレンガを投げている。

世界で最も安全な都市の1つである香港は、すでに11週間続く非組織的な民主化運動に揺れている。平和的な抗議活動と並び、正当な政治表現としての「実力行使」の考えが、次第に主流になりつつある。

「暴力で暴力に対抗できないのは分かっている。でも時には、政府などの関心を引くために攻撃性が必要だ」

先週末、香港の空港で警官隊と衝突した夜間の抗議デモに参加していた22歳のパンさんは、こう主張した。

「石を投げたり、傘を使って他人の盾になったり、バリケードを作り、物資を届けたり、負傷者を安全な場所に連れて行ったりした。警察に警棒で殴られもした。みなこの状況に少しずつ慣れてきている。そうしないとやっていけない」

旧英領の香港では6月、特別行政府が提案した中国本土への犯罪容疑者引き渡しを可能にする条例改正案が大規模な抗議活動を引き起こした。

1997年に中国に返還された後の香港で、一定の自由を保障してきた「1国2制度」のシステムがむしばまれつつあるとの広い懸念が、抗議活動に油を注いだ。

民主的な選挙の実施を求めた2014年の「雨傘運動」と異なり、今回の抗議活動には最初から衝突も辞さない姿勢が明らかだった。

参加者はヘルメットやマスク、ゴーグルを身に着け、入念な計画のもとに必要な装備を抗議活動の最前線に供給し、催涙ガスの威力を抑える周到な準備をしていた。

これは一定の成果を生んだ。抗議活動が激しさを増してから数日後、香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、改正案の凍結を表明し、改正案は「死んだ」と述べた。同長官は今月20日にもこの表現を繰り返した。

これで勢いづいた抗議活動は、より根本的な民主化を求める広範囲で創造的、かつ洗練された運動へと変貌を遂げた。そして中国の習近平・国家主席に、最大の政治危機を突きつけている。

抗議デモ参加者はより攻撃的になり、香港全土で警官隊といたちごっこを繰り広げている。

18日に行われた大規模デモは平和的だったが、活動家たちは暴力が拡大していく可能性を排除しなかった。

「雨傘運動の失敗から多くを学んだ」と、パンさんは言う。前夜身に着けていた全身黒の衣服は空港の洗面所に捨て、新しい服を着ていた。

「暴力が拡大していくことを受け入れる人は確実に増えている。歓迎したり参加したりはしなくても、(参加者を)批判はしないという人たちだ。われわれは団結している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 5
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 10
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中