最新記事

香港デモ

出口の見えない香港デモ最前線 「秩序ある暴力」が市民の支持広げる

2019年8月26日(月)10時30分

自制のきいた攻撃性

香港で起きている「暴力」には秩序がある。

通行人はヘルメットとマスクを渡され、安全な場所に着くまで傘で守られる。救急車や消防車のために道が開けられる。数件の例外を除き、個人の所有物は攻撃されていない。

夜にぎわう湾仔(ワンチャイ)地区で行われた抗議デモの最中、子供連れのカップルが、デモ参加者で埋め尽くされたバリケードだらけの通りを何気なく歩いていた。催涙ガスが漂うなか、店の外でビールを飲みタバコを吸う人たちもいた。出稼ぎに来ているフィリピン人家政婦たちが、歩道橋の上でピクニックしていた。

「ベルリンやパリに比べて、ここのデモ参加者はキュートだ」と、ロベールと名乗るフランス人の航空管制官はビールを飲みながら話した。

一定の礼儀や安全性が尊重されているおかげで、一部の過激化したデモ参加者が、平和的なデモ参加者から支持され続けている。

雨傘運動が失敗に終わった原因の1つは、平和的な圧力を主張する古参議員と、より対立的な活動を主張する学生らの主導権争いにあったと、研究者らは指摘している。

だが今回は、中心的な役割を果たす指揮組織のない抗議活動の中で、様々な「会派」がそれぞれの戦略を追求できているという。

18日の平和的なデモに参加した人たちに暴力的な活動に対する評価を聞いたところ、「受け入れる」、「支持する」、「同意できない」と分かれた。しかし、「批判する」と答えた人はほとんどいなかった。

「人にはみなそれぞれのやり方がある。大事なのは結果だ。自分は受け入れる」と、妻と7歳の息子と一緒にデモに参加していたガレン・ホーさん(38)は語った。デモが暴力的になる前に離脱するという。

香港の複数の大学が6月9日から8月4日にかけ、デモ活動の現場12カ所で行った調査によると、参加者のほとんどが「平和的な集会と対立的な行動が協力し合った時に最大の効果を得られる」と考えている。

「政府が耳を貸さない場合、デモ参加者による暴力行使は理解できる」との考えに「強く賛成する」または「賛成する」と答えた人は、当初の69%から90%に増加した。強く反対、あるいは反対すると答えたのはわずか1%で、6月の12.5%から急減した。

「わたしたちはもう、『いい子』の香港人ではない」

労働者が多く暮らす大囲(タイワイ)地区でバリケードの設置を手伝っていたアイリスと名乗る女性(23)は話した。

「私たちをこの道に追い込んだのは政府だ。私たちが望んだのではない。毎日3度食事し、家で平和な時間を送って収入を得る安定した生活を望まない人などいないでしょう」

18日には、警察署に向かって悪態をついていた抗議活動の一団に対し、1人の男性が、この日の抗議デモは平和的に行わなければならないと語りかけた。この一団は速やかに撤収していった。

「われわれを支持してくれた平和的参加者に対して、われわれなりのやり方で支持を表明したものだ」と、覆面と黒いヘルメットで身を包んだビクターと名乗る男性(26)は話した。

ラム長官は20日、デモ参加者に対する警察の振る舞いについて、独立調査の求めには応じなかったものの、苦情に対応する特別チームを立ち上げると述べ、一歩譲歩したかに見えた。

シドニー大学で香港のデモを研究するアマンダ・タターソル氏は、抗議活動の大半を占める平和的な参加者と、より対立的なグループの間には最初から「相互依存」があったとしている。

暴力は混乱を生じさせるためではなく、戦術的な目的のために使われているという。

「いわゆる暴力行為について、この運動には非常に秩序があり、規模や境界が決められている」と、タターソル氏は分析した。

(翻訳:山口香子、編集:久保信博)

[香港 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

S&P500、来年末7500到達へ AI主導で成長

ビジネス

英、25年度国債発行額引き上げ 過去2番目の規模に

ビジネス

米耐久財受注 9月は0.5%増 コア資本財も大幅な

ビジネス

英国債とポンドに買い、予算案受け財政懸念が後退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中