最新記事

南北朝鮮

脱北の果ての餓死か 韓国で母子の遺体発見

North Korea Woman Who Fled to South Starves to Death with Son: Reports

2019年8月14日(水)15時30分
トム・オコナー

支援団体「北朝鮮難民支援基金」が助けてきた脱北者の写真 Josh Smith-REUTERS

<北朝鮮から逃げてきて韓国で餓死、とは皮肉なようだが、韓国政府や援助団体の支援があっても、脱北者が韓国社会に馴染むには高いハードルがある>

脱北して韓国のソウルで暮らしていた女性が、幼い息子と自宅アパートで死亡しているのが見つかった。ソウルで極貧の暮らしをしていたらしい2人は、餓死した可能性もあるという。

8月12日の東亜日報の報道でわかった。それによると、遺体が見つかったのは7月31日。女性は42歳、もう1人は6歳の息子と思われ、死後2カ月ほど経過していたという。近隣から悪臭がするという苦情が相次いだことから、発見につながった。

食べ物は唐辛子だけで、家賃もガス代も一年以上滞納していた。命を落としたと思われる時期に、銀行口座から最後の現金3858ウォン(3.16ドル)を引き出していた。東亜日報によると、警察は死因は餓死の可能性が高いと見ているが、捜査は続いている。

<参考記事>数万人の脱北女性が中国で性奴隷にされている

支援の手をすり抜け

「他殺や自殺の形跡はなかった」と、ソウル冠岳警察署の関係者はAFP通信に語った。「検死結果を待っているところだ」

朝鮮日報が脱北者のSNSなどから収集した情報によると、この女性は受けられる支援も受けられない不運が続いたようだ。



この女性は脱北後、中国朝鮮族の男性と婚姻している状態で韓国に来た。脱北者定着支援施設「ハナ院」で2カ月間の適応教育を終えた脱北者は社会に出る時、基礎生活受給者に指定されて政府の財政支援を受ける。女性はこの支援を9カ月で脱した。夫が慶尚南道統営の造船所で働き、生活費を稼いだからだという。2人の間には男の子も誕生した。しかし、造船不況が慶尚南道一帯を覆うと、一家は中国に引っ越した。

ところが女性は昨年末、息子と2人だけで韓国に戻ってきた。夫とは離婚したことが分かった。女性の知人は「息子に病気があると聞いた。そのため、子守をしてくれる人がいなくて、女性は外に働きに行けなかったそうだ」と語った。ある脱北者は「生計を立てるのが困難な脱北者は『北朝鮮離脱住民支援財団』に申請すれば支援金を受け取ることができるが、子どものために家の外に出てほかの脱北者に会うのが難しかったこの女性は制度を知らなかったようだ」と言う。

<参考記事>国境の川から北朝鮮を逃げ出した脱北者たち それぞれの事情

北朝鮮には、人権侵害や命にかかわる食糧難がある。だが、何とか韓国に逃げてきたとしても、母国とは劇的に異なる環境に適応できない脱北者もいる。脱北者のなかには、命からがら逃げてきた北朝鮮に戻ろうとする人間も一握りとはいえいるのだ。

2019081320issue_cover200.jpg
※8月13&20日号(8月6日発売)は、「パックンのお笑い国際情勢入門」特集。お笑い芸人の政治的発言が問題視される日本。なぜダメなのか、不健全じゃないのか。ハーバード大卒のお笑い芸人、パックンがお笑い文化をマジメに研究! 日本人が知らなかった政治の見方をお届けします。目からウロコ、鼻からミルクの「危険人物図鑑」や、在日外国人4人による「世界のお笑い研究」座談会も。どうぞお楽しみください。


ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中