最新記事

北朝鮮

国境の川から北朝鮮を逃げ出した脱北者たち それぞれの事情

2018年5月2日(水)11時02分

4月12日、脱北者のほとんどが、国境の川を越えて北朝鮮から逃れている。ソウルにたどり着いた脱北者に、話を聞いた。写真は北朝鮮人民軍に在籍していたチョン・ミンウさん。ソウルで2017年8月撮影(2018年 ロイター/Kim Hong-ji)

脱北者のほとんどが、国境の川を越えて北朝鮮から逃れている。ソウルにたどり着いた脱北者に、話を聞いた。

川で命を落とした父

ソン・ビョクさん(48)は、プロパガンダ作品のアーティストだった。父親は、2000年に図們江を渡ろうとして溺れて死んだ。ソンさんは2001年に北朝鮮を脱出するとき、家族の写真を持ってきた。

「(2000年の)8月に、食べ物を探して故郷を出た」と、ソンさんは最初に脱北しようと試みた当時を振り返る。

「私たちの町は内陸部にあったので、川の水位はどこが高くて、どこが低いのか分からなかった。その当時は知らなかったが、そのとき川は、雨の多い季節で増水していた。それでも渡らないとだめだと思った。

中国に渡って、食べ物を手にすることしか考えられなかった。服を脱いで縛り、そのひもで体をつないだ。父には、離さないように言った。川の中ほどまで来たときに、急にひもが軽くなり、振り返ると、父が流されていくのが見えた。

私は慌てた。父は水にのまれかけていた。私は大急ぎで北朝鮮側に戻り、国境警備兵に父を助けてほしいと頼んだが、彼らは、なぜお前は死なずに逃げてきたのか、と言うだけだった。私は手錠をかけられ、連行された。8月28日のことだった。

私は、会寧(フェリョン)で保衛省(秘密警察)の拷問を受けた。その後、清津(チョンジン)の強制収容所に4カ月入れられた。釈放後、私は生き延び、生き続けなければならないと思った。

再び脱出を試みる前に、故郷の家に戻り、家族の写真を持ってきた。もし脱出しようとして死ぬことになっても、少なくともこの写真を持っていたいと思ったのだ。

父を見つけることはできなかった。韓国に到着後、2004年に中国に戻り、川のほとりで父の弔いをした。心が、まだ痛む」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ダライ・ラマ「130歳以上生きたい」、90歳誕生日

ワールド

米テキサス州洪水の死者43人に、子ども15人犠牲 

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中