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「ポスト平成」におけるフランチャイズ化の行方

2019年8月8日(木)14時00分
待鳥聡史(京都大学大学院法学研究科教授) ※アステイオン90より転載

政治面での地域政党の出現にせよ、行財政面での地方分権改革にせよ、その対象となったのは基本的に既存の都道府県や市町村であった。政策についても同様である。しかし、大都市圏においては都道府県の境界を超えた社会経済活動(たとえば、兵庫県に住みながら大阪府に通勤する)が珍しくなく、非大都市圏でも市町村の境界を超えることはごく一般的である。むしろ近年では、財政事情などから公立病院の広域利用化などが図られることも多く見られるようになっている。

社会経済の活動を政治行政の単位に押し込めることが全く現実的ではない以上、圏域問題を解決しようとすれば、政治行政の活動単位と政策の対象を広域化するか、あるいは活動ごと、政策ごとに単位を異ならせるしかない。

広域化の代表例が合併であり、市町村については既に試みられたが、成功であったという確信を抱く人は少ないようだ。都道府県の合併となると抵抗はいっそう大きく、実現は困難だといわざるをえない。

さしあたっての対応としては、政治行政の活動や政策対象の単位の柔軟化ということになるのだろう。柔軟化とは、都道府県や市町村といった単位にほぼすべての行政の活動や政策の対象を固定的に揃えてしまうのではなく、たとえば産業立地は近隣の複数の市町村が合同で推進する、人口の増加策は複数の府県が共同で企画する、といった動きを指す。

社会経済の活動ごとに成立している圏域について、それぞれに見合った政治的意思決定や行政活動の単位を柔軟に作り出せるかどうかが鍵を握る。

このような動きは、たとえば近畿圏の府県による「関西広域連合」など萌芽的には存在しているが、まだ実効性のある政策を打ち出すには至っていない。ゴミ処理について複数の市町村が作る「一部事務組合」のような古くからの手法もあるが、狭い範囲の行政事務に止まっている。

現状では柔軟化に二の足を踏む地方自治体が多いことを踏まえて、それを乗り越える理論的根拠や誘因を設定できるか。少子高齢化の悪影響をすべてはね返すのは難しいであろうが、将来展望に乏しい従来型の公共事業や場当たり的な政策を打つよりも、考える価値はあるように思われる。圏域問題にいかに取り組むかは、ポスト平成の時代における重要な政策課題である。

【参考記事】学術言語としての日本語
【参考記事】京都市の大胆な実験

待鳥聡史(Satoshi Machidori)
1971年生まれ。京都大学大学院法学研究科博士課程退学。博士(法学)。大阪大学大学院法学研究科助教授、京都大学大学院法学研究科助教授を経て、現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『財政再建と民主主義』(有斐閣)、『首相政治の制度分析』(千倉書房、サントリー学芸賞)など。

当記事は「アステイオン90」からの転載記事です。
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