最新記事

米中貿易戦争

トランプの対中追加関税、ターゲットは中国とFRB

Why More Tariffs?

2019年8月6日(火)17時30分
ジョーダン・ワイスマン

貿易摩擦をエスカレートさせ利下げとドル安効果を狙うトランプだが LEAH MILLIS-REUTERS

<中国だけでなくFRBにも圧力を――。「思慮深い」大統領は一石二鳥をもくろむが......>

ドナルド・トランプ米大統領はまたしても中国からの輸入品に関税を課す気らしい。中国との貿易交渉に進展がなかったようで、9月1日から中国からの輸入品に新たに10%の関税を課すという。

8月1日にツイッターで発表したが、側近の代筆かと疑うようなつぶやきもあった(「包括的な合意に向け前向きな貿易交渉を継続していきたい。両国の未来は輝かしいものになるだろう!」など)。追加関税はこれまで非課税だった3000億ドル相当が対象で、既に対象となっている2500億ドル分については引き続き25%が課税される。

それにしても妙なタイミングだ。米経済はこのところ弱含みで、債券市場では長期金利が短期金利を下回る「長短逆転」が起きている(景気後退の予兆)。GDPの伸びは鈍化気味で、設備投資も落ち込んでいる。

トランプの対中貿易戦争も(厳密にどの程度かは不明だが)災いしているというのが、大方の見方だ。7月末にFRBが利下げに踏み切った際、ジェローム・パウエル議長は利下げ理由の1つにトランプの貿易戦争をほのめかした(パウエルに言わせれば、利下げは「世界経済の低迷と貿易摩擦から予想されるリスクに備える」ためだとか)。

トランプが追加関税を発表して貿易摩擦に拍車を掛ければ、その結果アメリカでは輸入品が値上がりして消費者の負担が増し、企業のサプライチェーンは混乱する。米経済全体に(わずかではあっても)悪影響を及ぼすのは必至だ。彼の狙いは一体何なのか。

トランプは中国との報復合戦が経済に及ぼす影響には無頓着で、あくまで戦い抜くつもりなのかもしれない。それは、追加関税を負担しているのは中国人であり、中国との貿易戦争でアメリカが失うものはない、という公式発言からもうかがえる。

世界経済を危険にさらす

追加関税によってFRBに今回以上の利下げを迫ろうとしている可能性もある。多くの投資家は(トランプも)FRBが積極的な利下げを続けていく意向だとパウエルが示唆するのを期待していた。ところがパウエルは、追加利下げは景気見通しが悪化した場合のみになると示唆し、「貿易摩擦」を政策立案者が注視すべき重要な要因の1つ、とだけ述べた。トランプが摩擦をヒートアップさせたのはその翌日だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中