最新記事

中台関係

中国、台湾への個人旅行を暫時停止──かまえる中国軍

2019年8月2日(金)13時59分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

台湾の蔡英文総統が大衆を煽っていると中国は考えている Andres Martinez Casares-REUTERS

中国政府は8月1日から中国の47都市における台湾への個人渡航を暫時停止した。蔡英文総統が香港デモを利用し台湾独立を煽っているからだという。注目すべきは国防部が発した不穏なメッセージだ。

47都市で台湾への個人旅行を暫時停止

2019年7月31日付で、中国大陸側の台湾向け旅行などを担当する「海峡両岸旅游交流協会」は「8月1日から中国の47大都市に居住する者の、台湾への個人旅行を暫時停止する」という通知を発布した。その通知は中国の中央行政の一つである「中華人民共和国文化と旅游部」のウェブサイトに掲載されている。つまり、この決定は、中国政府による決定であるということだ。

中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」電子版「環球網」など、多くの中国政府と党の関係メディアが報じた。このページに47都市名が列挙してある。

大陸(北京政府)と台湾は、ビジネス以外の、観光などによる往来を厳しく制限してきたが、2008年から団体旅行が解禁され、2011年6月28日からは、北京、天津、上海などの大都市から始まって、徐々に対象都市を広げていき、今では47都市に対して個人による台湾旅行を認めるようになっていた。

中国大陸では一般に「台湾自由行」と言われているが、正式の呼称は「赴台個人游」。つまり「旅行社などを経由した団体旅行ではなく個人旅行」のことを指す。

とは言ってもビザなしで行けるわけではなく、大陸側は審査の上で「大陸居民往来台湾通行証」という許可証を発行し、台湾側は旅行ビザを発行する。この両方があって、初めて渡航が許される。

今回は中国大陸の方の審査が一時中止になるという意味である。審査をしないということは旅行を禁止したことになる。

香港と同じく、台湾も大陸からの旅行客が落としていく金の効果は大きい。

だから北京政府は香港や台湾に旅行する観光客の人数を増減させることによって政治的圧力を調整してきた。

大陸から台湾への観光客は、馬英九が率いる国民党政権の時には「92コンセンサス」に基づいて平和統一の方向に動いたため、418万人に達していたが、蔡英文率いる民進党が政権を奪ってからは、この個人旅行の許可人数を調整することによって、台湾の独立傾向に対して圧力を加えていた。中国政府側の発表によれば、昨年は269万人にまで減少していたという。

なぜなのか?

では、このたび、なぜこのような措置を決定したのか。

もちろん理由としては、アメリカの台湾への武器売却や、香港デモに対する蔡英文政権の声明などが考えられる。両方の要素ともあるだろう。

7月8日、アメリカは戦車や地対空ミサイルなど総額22億ドル(約2400億円)の台湾への武器売却を約束した。

一方、たしかに蔡英文ら政権与党(民進党)側は「もし習近平が台湾に対して要求している一国二制度を容認すれば、香港のようなことになる。香港デモは他人ごとではない。香港デモは台湾の未来像、いや明日だ」として、香港デモの現実を認識せよと警戒感を強めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニー、米パラマウント買収交渉に参加か アポロと協

ビジネス

ネットフリックス、1─3月加入者が大幅増 売上高見

ワールド

ザポロジエ原発にまた無人機攻撃、ロはウクライナ関与

ビジネス

欧州は生産性向上、中国は消費拡大が成長の課題=IM
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中