最新記事

軍事

米ロ中にインドも参戦──宇宙軍拡ウォーズはどうにも止まらない

From Moon Walk to Space Wars

2019年8月2日(金)17時00分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)

インドも7月22日、月に向けて無人探査機を打ち上げた。着陸は9月の予定だ INDIAN SPACE RESEARCH ORGANISATIONーREUTERS

<歯止めなき宇宙軍拡競争はあまりに危うい>

1969年7月にアメリカの宇宙飛行士が初めて月面に降り立って50年。宇宙戦争はSF映画の題材にとどまらず、リアルな脅威になりつつある。

世界の大国は、地球上の全ての生命を何回も抹殺できる量の核兵器を保有するだけでは満足できず、宇宙の軍事利用を急速に進めている。人工衛星を利用したサービスが私たちの暮らしや経済に欠かせない存在になっていることを考えれば、宇宙戦争の損害は計り知れない。

20世紀後半の冷戦期にアメリカとソ連が宇宙開発を競い合ったときと同じように、今の宇宙開発競争も国の力を誇示する象徴的な意味合いが大きい。半世紀前の月面着陸がアメリカの宇宙覇権確立に大きな意味を持ったこともあり、いま宇宙大国を目指す多くの国は、まず月に目を向けている。

今年1月、中国は世界で初めて月の裏側に無人探査機を着陸させた。7月22日には、インドが月に向けて無人探査機を打ち上げた(9月に月の南極付近に着陸予定)。日本や韓国、イスラエルなども、月の探査を目指している。

アメリカも簡単に王座を明け渡すつもりはない。トランプ政権は「5年以内にアメリカの宇宙飛行士を再び月に送り込む」方針を打ち出している。「20世紀に初めて月に人類を上陸させた国であるアメリカは、21世紀に初めて月に人類を上陸させる国になる」と、マイク・ペンス副大統領は宣言した。

これらの国々は、自慢するためだけに宇宙探査を急いでいるわけではない。宇宙空間での軍事的能力の増強も目的だ。自国を狙う弾道ミサイルを撃ち落とす迎撃システムは防衛的兵器と言えるかもしれないが、人工衛星を破壊する衛星攻撃兵器(ASAT)システムなどは攻撃的兵器にほかならない。

この種の兵器で他国よりも優位に立つことは、軍事戦略の大きな柱になりつつある。ドナルド・トランプ米大統領が宇宙軍の創設を決めた背景には、このような事情がある。

国際的なルールづくりを

アメリカはこれにより、宇宙空間での優位を守りたいと考えている。しかし4月、当時のパトリック・シャナハン国防長官代行は、その優位が「急速に縮小しつつある」と指摘した。中国やロシアなどが追い上げてきているからだ。中国は人民解放軍にロケット軍を新設するなど、宇宙空間の軍事利用で世界の先頭に立とうとしている。

中国とロシアはいずれも、軍事活動を支援するために用いることも可能な人工衛星を「実験衛星」という名目で打ち上げている。いつでもアメリカの人工衛星を攻撃できる体制をつくることにより、紛争時にアメリカに対する強みを握ることが目的と、米空軍は指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中