最新記事

銃乱射

理不尽で無差別な暴力「銃乱射」で娘を奪われた父親の果てなき闘い

One Man’s Loss

2019年7月19日(金)18時45分
フレッド・ガッテンバーグ

ジェイミーと一緒に写真を撮るガッテンバーグ(筆者提供) COURTESY OF FRED GUTTENBERG

<フロリダ州の高校で元在校生が17人を射殺した昨年の乱射事件で、突如14歳の娘を失った父親の「後悔」と「願い」>

この1年であまりに多くのことがあった。でも、私の時間は止まったままのように思える。

わが子の命を銃によって奪われた人間の人生がどう変わるか、経験していない人には分からないだろう。もう普通の生活は送れない。新しい朝を迎えるたびに、わが子への思いは薄れるどころか強まる一方だ。

初登校の日やダンスの発表会、誕生日の思い出......。失ったものを毎日思い出す。家族の休暇の計画など当たり前だったことが新しい意味を持つようになる。

バレンタインデーの意味も変わった。私たち家族にとって、この日が愛の象徴になることは二度とない。2018年2月14日は、14歳だった娘のジェイミーがマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校の乱射事件で命を落とした日だからだ。

あの朝、慌ただしく学校に行った娘に「愛している」と言ったかどうか思い出せないことがずっと心の重しになっている。娘が帰ってこないなんて想像もしていなかった。

彼女はAR15ライフルを構える犯人から逃げようとする恐怖の中で死んだ。そのことが、記憶をいっそうつらいものにする。新たな乱射事件がニュースになったり、誰かがツイッターで銃暴力について意見を述べたり、あるいはジェイミーを殺した犯人にまつわる法的手続きについての新たな通知を受け取るたびに、私たちは娘の死を思い出す。

もう二度と、私たちのようにわが子を公共の場所に送り出した親たちが、子供が戻ってこないと告げられることがないようにしたい。それだけが、私がいまジェイミーにできることだ。

身元調査の義務化が必要

地方講演やメディアの取材、議会証言など、今の私は娘に対するエネルギーと愛情の全てを銃暴力撲滅の闘いに費やしている。そして娘のために立ち上げた基金「オレンジリボン・フォー・ジェイミー」を通じて、娘の夢を生かし続けている。

全ては娘のためだ。私に闘うことをやめろと言うのは、ジェイミーの父親であることをやめろと言うのと同じだ。

アメリカの銃暴力は危機的状況にある。今年に入ってからの1カ月間で、銃で殺害された人の数は既にその他の高所得国で1年間に殺される人の数を超えた。1カ月でほかの国の1年分の死者を出しているのだ。

受け入れ難いことであり、私たちはわが国の指導者に変革を求めるべきだ。今なら連邦議会下院は、全ての銃販売に際してバックグラウンドチェック(身元調査)を義務付ける超党派の法案を可決することができる。世論調査では銃所有者の過半数がこの法案を支持している。

事件がなければ、私は娘に車の運転を教えるはずだった。16歳の誕生日パーティーを計画したり、初めてのボーイフレンドについてからかったり、娘の就職を見守ったりするはずだった。10代の娘を持つ父親がする全てのことを、私もするはずだった。今、私は娘の墓を訪れて、ほかの誰にも娘に起きたようなことが起きないようにと願っている。

ジェイミーは永遠に14 歳のままだ。そして私は永遠に彼女の父親であり続ける。

<本誌2019年2月26日号掲載>

20190723issue_cover-200.jpg
※7月23日号(7月17日発売)は、「日本人が知るべきMMT」特集。世界が熱狂し、日本をモデルとする現代貨幣理論(MMT)。景気刺激のためどれだけ借金しても「通貨を発行できる国家は破綻しない」は本当か。世界経済の先行きが不安視されるなかで、景気を冷やしかねない消費増税を10月に控えた日本で今、注目の高まるMMTを徹底解説します。


ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシア、16歳未満のSNS禁止を計画 来年から

ワールド

米政府効率化省「もう存在せず」と政権当局者、任期8

ビジネス

JPモルガンなど顧客データ流出の恐れ、IT企業サイ

ワールド

米地裁、政権による都市や郡への数億ドルの補助金停止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中