最新記事

宗教

イスラム教で「不浄」の犬と土足でモスクへ インドネシア、統合失調症の女性を宗教冒涜罪で訴追

2019年7月10日(水)19時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

ペットの犬をドッグコンテストに参加させる富裕層もいるインドネシアだが、多くの人びとにとって犬は「不浄」の存在だ Supri Supri - REUTERS

<インドネシアで犬を連れたキリスト教徒の女性がモスクに入るという事件が起きた。統合失調症ということも勘案して許容すべきかどうか世論が分かれている>

世界第4位の人口約2億6000万人の88%をイスラム教徒が占め世界最大のイスラム教徒を擁する東南アジアのインドネシアで今再び、その宗教的寛容性が問われようとしている。

イスラム教の礼拝施設であるモスクの内部に犬を連れ込んだ女性が「宗教冒涜罪」に問われようとしているのだ。

「犬」はイスラム教徒にとって禁忌に属する動物で厳格なイスラム教徒は触ることも嫌う。海外の空港で麻薬探知や爆発物探知のための犬がイスラム教徒の人の体を検査しようとして「イスラム教徒への宗教的嫌がらせだ」と主張して検査を拒否、問題になったこともある。

こうした理由からインドネシアではペットとして犬を飼育するのは非イスラム教徒の中国系インドネシア人や外国人に限られているとされ、屋外を犬と散歩する際もイスラム教徒やイスラム教関連施設には不用意に近づかない配慮が求められている。

女性は精神疾患の病歴も

ところが、西ジャワ州ボゴールにあるモスクに女性が犬を連れて入り、周囲にいたイスラム教徒の男性らが気づいて、通報を受けた警察が宗教冒涜罪容疑でこの女性を逮捕する事件が6月30日に起きた。

女性は52歳のキリスト教徒と主張しているが、氏名は身の安全とプライバシー保護のためSMというイニシャルしか発表されていない。SMさんは夫を探しにモスクに入ったと説明しているが、犬を連れたうえ通常は履物を脱いで入るモスク内部にサンダル履きの土足で入ったことも「イスラム教への冒涜」とされた。

SMさんの家族によると、彼女は2013年に精神疾患の疑いで治療を受けたことがあり、病院のカルテによると「統合失調症」と診断され現在も治療中としている。

こうした家族の訴えにも関わらず警察当局は「病歴があったとしても起訴されて裁判となり、病気の影響を考慮するかどうかは裁判で判断されることになる」との立場を崩していない。宗教冒涜罪で有罪となった場合は最高で禁固5年の刑となる可能性がある。

モスク関係者は「SMの行為はイスラム教のモスクという聖なる場所に対して犬とサンダルという不純を持ち込んだもので、モスクへの攻撃とみなされる」と厳しく批判。当時の様子を撮影した動画がネット上で拡散され、SMさんの行為への批判が全国で高まる状況となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪BHP、上半期利益が22%増 銅・鉄鉱石など好調

ワールド

豪中銀、2月利上げ後の金利見通し不透明=議事要旨

ビジネス

インド、1月のモノの貿易赤字は346.8億ドル 3

ワールド

トランプ氏、イラン核協議に「間接的関与」 合意に期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したスーツドレスの「開放的すぎる」着こなしとは?
  • 2
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 10
    アメリカが警告を発する「チクングニアウイルス」と…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 10
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中