最新記事

安全保障

朝鮮半島の平和的統一がすう勢 美根・元日朝交渉代表「日本は北朝鮮の非核化検証と経済支援を」

2019年7月9日(火)13時30分

7月9日、参院選の直前、米中首脳会談や米朝首脳会談が相次いで行われる一方、イラン情勢は緊迫の度を高め、経済状況にも大きな影響を与えようとしている。写真は米朝首脳会談の様子の映るテレビモニター日米の国旗。東京の外為商社で2月に撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

4日に公示された参院選の直前、米中首脳会談や米朝首脳会談が相次いで行われる一方、イラン情勢は緊迫の度を高め、経済状況にも大きな影響を与えようとしている。米中の経済交渉次第では、世界の経済圏が二分されるリスクがあるほか、安全保障環境の変化はグローバルな経済・市場動向に打撃を与えかねない。ロイターは、安保と経済をテーマに3人の識者に今後の展望を聞いた。

初回は、元外務省官僚で日朝国交正常化交渉日本政府代表を務めた平和外交研究所代表の美根慶樹氏。

米朝対話などを踏まえ、朝鮮半島は平和的に南北が統一されて行くとの見通しを示した。それに合わせて在韓・在日米軍や日米安保が縮小されることが「歴史のすう勢」と指摘。日本は、北朝鮮の非核化検証や経済支援などで積極的に関与していくことが望ましいと主張した。

美根氏は、1968年に東大法学部を卒業後、同年に外務省入省。2007年4月から日朝国交正常化交渉日本政府代表を務め、09年に外務省を退官した。  

昨年6月のシンガポールでの米朝首脳会談で合意された共同声明を詳細に分析することが重要であると美根氏は指摘。

具体的には、1)新しい関係を作る、2)恒久的な平和を実現するため両国が努力する──との文言が盛り込まれたことを重視し、「これは半島の平和確立のための明確なメッセージだ。北朝鮮と韓国が平和的に統一されるのが、大きなすう勢だ」との見通しを示した。  

また、朝鮮半島に対して「日本が協力できる余地は大きい」との立場を示し、特に北朝鮮の非核化に関しては「日本も国際原子力機関(IAEA)から核査察を受けてきた国なので、非核化の検証では日本が協力できる」と述べた。

2020年の東京五輪・パラリンピックに韓国・北朝鮮は統一チームで選手団を派遣する予定だが、「日本も協力し、日本と南北で3者(首脳)会談を目指すべき」との見解を示した。

安倍晋三首相と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長との会談が実現していない理由について「金委員長の立場からみると、安倍首相は安保法制や憲法改正などの政策を実現する上で北朝鮮を利用しているように見えるからではないか」との仮説を提示した。

韓国に対しても関係改善の努力が必要との立場で、半導体素材や半導体製造装置などの輸出規制については、撤廃が望ましいとの意見だ。

今後、米国は「在韓米軍を縮小し、在日米軍、沖縄の海兵隊縮小も議論になるだろう」と予想した。

米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設については「米国が即座に撤退すれば日本政府への影響が大きいため、米側が日本に配慮する可能性はある」と述べ、米海兵隊の縮小が現実化しても、辺野古移設が日米合意の下で進められる可能性を指摘した。

美根氏は、トランプ米大統領による最近の日米安保見直し発言について「日米通商交渉を有利に進めるための手段という一面はある」と指摘しつつ、日米安保縮小が現実に議論され始めた場合の影響にも言及。「必ず核の傘が議論になる。日本国内で核武装論が浮上する可能性もあり、東アジアは蜂の巣をつついた状態になるだろう」と懸念を表明した。

さらに核兵器の性格について「その非人道性から、保有することの意義が低下している」と指摘し、核に依存しない外交関係の重要性を強調した。

同時に日本政府が「いつか核武装するとの方向性を大きく培養させながら、ひた隠しにするとすれば、それはおかしい」との見解も示した。

安倍政権の外交姿勢に関しては、情報開示に問題があるとの考えを示した。「安倍首相は、初対面の時からトランプ米大統領が日米安保にいろいろと(不満な)意見があるのを聞いていたと話しているが、このような国民に重要な情報は(当初から)知らせるべきだった」と強調した。

安倍首相による6月のイラン訪問に関しても「イランの最高指導者のハメネイ師が米国とは協議しないとの意志を示した点について、首相官邸の発表には掲載されていない」とも述べ、その対応に疑問符を付けた。

*美根氏のインタビューは8日に行われた。

竹本能文 編集:田巻一彦

[東京 9日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月7日号(9月30日発売)は「2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡」特集。投手復帰のシーズンも地区Vでプレーオフへ。アメリカが見た二刀流の復活劇

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「サナエノミクス2.0」へ、総裁選で自動車税停止を

ビジネス

自民新総裁で円安・株高の見方、「高市トレード」再始

ワールド

アングル:高市新総裁、政治空白の解消急務 「ハネム

ワールド

自民新総裁に高市氏:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 4
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 5
    謎のドローン編隊がドイツの重要施設を偵察か──NATO…
  • 6
    「吐き気がする...」ニコラス・ケイジ主演、キリスト…
  • 7
    「テレビには映らない」大谷翔平――番記者だけが知る…
  • 8
    墓場に現れる「青い火の玉」正体が遂に判明...「鬼火…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 6
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 7
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中