最新記事

観光地

世界遺産の砂丘が壊滅? 原因は観光客の野外のいけない行為......

2019年7月1日(月)16時40分
モーゲンスタン陽子

「行為」が貴重な植物にダメージを与える、イビザ島のエス・カバレビーチ ibiza-spotlight.com

<観光地として有名なスペインのイビザ島で、貴重な生態系である砂浜や砂丘が取り返しのつかないダメージを受けていると、環境学者や生物学者たちが警鐘を鳴らしている。その理由は......>

いよいよ夏本番。毎年この時期になると、欧州ではたくさんの若者たちがスペインのイビザ島に集う。地中海に浮かぶこの島は全体がユネスコ世界遺産として登録されている。中世の面影残る街並み、美しいビーチのほか、有名なのはクラブシーンで、80年代にイギリスの有名なDJたちが頻繁に訪れたことから、とくにイギリスからの観光客が多い。

だが近年、その観光客たちによって島の貴重な生態系である砂浜や砂丘が取り返しのつかないダメージを受けていると、環境学者や生物学者たちが警鐘を鳴らしている。ヌーディスト・ビーチで観光客が砂の上で夜な夜な繰り広げる性行為が原因だという。

「行為」が砂表面の貴重な植物を破壊

欧州には少なからぬ「ヌーディスト」あるいは「裸体主義者」がおり、彼らが気兼ねなく裸で動き回れるように、専用の指定区域もある。イビザ島のエス・カバレビーチの一角もそんなヌーディストエリアの1つだ。だが、同ビーチには別の顔もある。観光客が一夜の恋の相手を求めて歩きまわる「クルージング」という行為のメッカなのだ。

アダルトサイトなどの広告を見て集まった観光客が夜な夜な集まり、砂の上を歩き回り、性行為を繰り返す。年間何百万とイビザを訪れる観光客のすべてがクルージング目的ではないだろうが、それでもかなりの数がエス・カバレにやって来る。イビザの観光ガイドによると、ゲイのコミュニティで知られているようだが、男女のクルーザーも多いようだ。

ところが、それらの行為が環境に意外な悪影響を与えていると、学者たちが警鐘を鳴らし始めた。生物学者のフアン・カルロス・パレルムがイビザ日誌に語ったところによると、観光客の絶え間ないクルージングや性行為によって、砂の表面を覆っている小さな植物の層が破壊されてしまうという。

これらの植物は、エンバートと呼ばれる海風から砂を守っているのだが、非常に短命で、ひっきりなしに踏みつけられると死滅して再生できない可能性があり、結果、植物による保護膜が失われ、砂が移動し土壌が侵食されるだろうと指摘する。

砂丘を保護しようとするキャンペーンも過去に何度か行われたが、うまくいかなかったようだ。立ち入り禁止のフェンスをめぐらせても観光客はよじ登ってしまうし、また観光客との衝突もあったという。

さらに、同じくスペインのマヨルカ島など、観光客が多く集まる島の砂浜や砂丘で似たような危機に面しているところもあるようだ。

オーバーツーリズムの弊害

観光客が過度に集中し、観光地に様々な弊害をもたらす「オーバーツーリズム」が昨今取り上げられることが多い。ヴェニス、バルセロナ、日本では京都などがオーバーツーリズムに苦しんでいるが、イビザも例外ではない。テレグラフ紙によると、人口13万の島に、2017年には320万人以上が押し寄せたという。うち、抜きん出て多いのはイギリス人で87万以上、次いでスペインの約68万、イタリアの約43万と続く。

世界的に有名なナイトクラブや高級レストランが観光客で成り立っているのも事実だが、生活を脅かされ困惑した住民たちが悲鳴を上げ始め、昨年、500人以上の島民が集まり、島で初めての抗議デモが行われた。

住民たちは、オーバーツーリズムによる弊害、たとえば物価や家賃の高騰、犯罪率の上昇、騒音被害などについて抗議の声を上げた。観光客同士によるレイプや暴力沙汰は後を絶たず、この6月だけでも、男性が繁華街の中心でレイプされたり、女性が輪姦されたりした。被害者・加害者すべてイギリス人だ。

抗議の声を受け、イビザでは昨年から、島の特定の地域でAirbnbなどの民泊サイトに個人住宅の中の部屋を登録することが禁じられた。また、ナイトクラビングの中心地であるサン・アントニオでは保護区域が設けられ、クラブの営業は午前5時から3時までに短縮され、また野外バーの営業は深夜までとなった。

これからは21世紀型の、持続可能なツーリズムを目指していくという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB、政策「会合ごとに判断」 中東緊迫化でも既定

ワールド

欧州各国、安全確保やキプロス保護へ海軍派遣 イラン

ビジネス

米1月輸入物価、0.2%上昇 エネルギー安を資本財

ビジネス

米労働生産性、第4四半期は2.8%上昇 伸び鈍化も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影された、パイロットの「まさかの姿」にSNS爆笑
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリン…
  • 5
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 6
    対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
  • 7
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 8
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「旅客数が多い空港」ランキン…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中