最新記事

移民問題

乱立する「国境の壁」資金調達 全米33万人からの寄付金は行方不透明に

2019年7月9日(火)09時55分

米国のトランプ大統領が看板政策として選挙公約に掲げていたのは、メキシコとの国境に「壁」を築くという構想だった。写真は、モンタナ州の農場で国旗を掲げるアーリン・マッカイさん。6月28日撮影(2019年 ロイター/Tommy Martino)

米国のトランプ大統領が看板政策として選挙公約に掲げていたのは、メキシコとの国境に「壁」を築くという構想だった。だがその夢は、相手国メキシコとの議論や、政府予算に影響力を持つ民主党議員からの反対を受け、泥沼にはまっている。

だが、政治的に行き詰まる一方で、壁建設に自ら取り組もうとする動きもある。米国第一主義の起業家や資金調達者、さらには不当利得者たちだ。

米国への移民流入に対するトランプ氏の怒りに乗じて、これまでに数十人の市民が非営利・営利組織を結成。壁建設そのものや、志を同じくする候補者を支援するための資金を調達するため、クラウドファンディング「ゴー・ファンド・ミー」でプロジェクトを立ち上げたり、政治団体を設立したりしている。それらに集まった資金は総額2500万ドル(約26億円)以上。その大半を集めた組織を率いる元空軍の退役軍人は、この種の資金調達キャンペーンを代表する「顔」となっている。

資金を出しているのはどのような人たちだろうか。

たとえば、モンタナ州で牧場を営むアーリン・マッカイさん(80)は1月、国境での壁建設資金として1000ドルを寄付した。数百万ドルを集めた資金調達キャンペーン「ウィー・ビルド・ザ・ウォール(私たちが壁を建てる)」に寄付したとばかり思っていたが、実際の送金先は似たような名前の別事業「ビルド・ザ・ウォール」だった。

寄付金を見当違いの宛先に送ってしまったことを知ったマッカイさんは、「国境の壁の1インチ分の費用にでもなれば、と思っていた」と語った。1000ドルあれば牛1頭の代金の半分にもなったのに、と彼女は言う。「これからは、もっと注意しないと」

ロイターの調査によれば、新たに発生した壁建設費用の調達キャンペーンに出資しようと財布の紐を緩めた米国民は全部で33万人以上に達している。こうした資金調達キャンペーンには壮大な計画がつきものだが、具体的な成果はほとんど出ていない。

これまでのところ、最も目につく効果といえば、ニューメキシコ州東部に、ボラード・フェンス(柱を並べた形状の障壁)が半マイル(約800メートル)にわたって新設された程度。「壁」資金調達キャンペーンのなかでも最大規模の組織が建設したものだ。

そのプロジェクトでさえ、法令上の壁に悩まされている。一方で、「壁」にあやかった記念品を作る企業や失敗に終わった政治行動委員会(PAC)が、一部の顧客や寄付者の落胆を招いている。

もっとも、こうした取組みが十分な「壁」を実現していないにせよ、支援者のなかには「何の後悔もない」という声もある。

「民間の組織が実際に壁を完成させられるとは期待していない。私が願っているのは、こうした取組みが他の政治家や政府に影響を与え、このような運動があると示すことだ」と語るのは、オハイオ州で情報テクノロジー関係の仕事に就くリチャード・ミルズさん(68)。彼は資金調達キャンペーン2つに400ドルを寄付したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、3月は前月比横ばい インフレ鈍化でも

ビジネス

日産、24年3月期業績予想を下方修正 中国低迷など

ビジネス

TSMC株が6.7%急落、半導体市場の見通し引き下

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中