最新記事

宇宙進出

ヒト精子は微小重力の影響を受けづらい:人類の宇宙進出は女性だけで大丈夫?

2019年6月27日(木)17時30分
松岡由希子

地球外にヒトの精子バンクをつくることが可能...... gorodenkoff-iStock

<スペインの医師の研究によって、ヒト精子は微小重力の影響を受けづらいことがわかった。宇宙にヒトの精子を安全に運ぶことが可能となる......>

昨今、人類の地球外惑星への移住が、その可否や是非も含めて、頻繁に話題となっている。微小重力環境がヒトの心血管系、筋骨格系、中枢神経系にもたらす作用については解明がすすんでいる一方、重力の変化によってヒトの精子や卵子にどのような影響を受けるのかについては、これまでほとんど明らかにされていない。

地球外にヒトの精子バンクをつくることが可能に

スペインのキロンデシェウス大学病院傘下の産婦人科病院「デシェウス」に所属するムンセラ・ボアダ医師は、カタルーニャ工科大学のエンジニアらと共同で、凍結保存したヒト精子のサンプルを人工の微小重力環境下にさらし、その性質や機能を地上のヒト精子と比較した。

ボアダ医師は、2019年6月24日、ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)の第35回年次総会でその研究成果を発表。微小重力環境にさらした精子の性質や機能は地上のものとほぼ同様であった。

ボアダ医師は「宇宙にヒトの精子を安全に運び、地球外にヒトの精子バンクをつくることが可能となるかもしれない」とその成果を強調している。ややSF的発想にもなるが、これにより女性宇宙飛行士のみ宇宙船に乗り込むことで、地球外で人類が繁殖できる可能性を示している。

精子のサンプル数を増やし、微小重力環境時間を長くして検証

名古屋市立大学大学院医学研究科の研究チームが2005年6月に発表した研究論文でも示されているとおり、微小重力環境はヒトの精子運動率を低下させるとみられるが、微小重力環境が凍結保存した精子にも同様に作用するのかどうかは解明されていなかった。

そこで、ボアダ医師らの研究チームは、健康な男性10名から精子を提供してもらい、これらを凍結保存したうえで、曲技飛行訓練用小型航空機「CAP10」に乗せ、機内を8秒間、人工的に微小重力環境にする放物線飛行を20回繰り返した。

微小重力環境にさらした精子と地上に残しておいた精子についてその性質や機能を分析したところ、濃度や運動率、生存率、正常形態率、DNA断片化率などにおいて、両者の結果に大きな差異は認められなかった。

今回の研究結果は予備的研究として位置づけられており、研究チームでは、今後、精子のサンプル数を増やし、微小重力環境にさらす時間を長くして、今回の研究結果を検証していく方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン氏、凍結資産巡りEU批判 「主要産油国の外

ビジネス

金利を変更する理由ない、政策は当面安定推移=スペイ

ワールド

仏上下両院合同委、予算妥協案で合意できず 緊急立法

ワールド

プーチン氏、「ウクライナ和平条件変わらず」 年末会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中