最新記事

米中貿易戦争

中国「開戦警告」発表:中国の本気度

2019年6月6日(木)18時00分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

100万人も解雇したのは、長年にわたる文化大革命(1966年~76年)で、中国経済は壊滅的な打撃を受けていたため、100万人もの「無駄な兵士」を雇用しているだけのお金が軍にはないからだ。だから解雇した。

その軍人崩れが、香港の電話交換機の代理販売という、言うならばブローカーを生業とする華為(Huawei)という民間企業を創ったからと言って、いったいどこから「軍が支援した」「背後には軍がいる」などという理屈が出てくるのか。

当時は雨後の竹の子のように民間企業が生まれては消えて行った。その中の一つだ。

この流れから見てもHuaweiの背後には軍があるなどという実しやかな流言には注意しなければならないことが見えてくるだろう。

米中ハイテク戦、中国の本気度

米中貿易戦争というか、その根幹となっている米中ハイテク戦争に対する中国の本気度は、これまでの「開戦前の辞」発表とその後の断行から考えて、勝ち負けは別としても、中国が本気であることが窺える。

レアアースのカードも本気なら、「信頼できない企業」リスト発表も本気だ。

今年5月29日の人民日報は再度「(この戦争は)戦いたくはない。しかし中国は戦うことを恐れていない。戦わなければならない時は戦う」という、いつもの言葉を載せている。その本気度こそは「勿謂言之不預」に凝縮されているとも書いている。

そして結んだ。

――こんにちの中国は、かつて虐められていた中国とは違い、独立自主の新中国だ。したがって、何人(なんぴと)たりとも中国の偉大なる復興への歩みを阻止することはできないのである。

なるほど。

ではこちらも、そのつもりで考察を続けるとしようか。

<注記>このコラムで書いた「戦争」というのは「貿易戦争」とか「ハイテク戦争」の意味であって、決して武器を使った、いわゆる「戦争」ではない。日本でも将棋などで「名人戦」と称するのと同じ「戦」の意味だ。中国が今、武器を使った戦争をアメリカとなど出来るはずがなく、もし武器を使った戦争などをしたら、現状で言うならば、「100%!」中国が敗けるのは明白だ。だから中国が「武器を使った戦争」をアメリカとなどやるはずがないし、またそのようなことをすれば一党支配体制崩壊につながるので、さらにやらないと断言してもいい。もっとも、今日までは、「勿謂言之不預」という「開戦警告」は、「武器を使った戦争」が始まる1,2ヵ月ほど前に宣言されてきた。したがって、「武器を使った戦争」と勘違いしてしまうのも無理からぬこととは思う。現に中国のメディアは、過去の「武器を使った戦争」に言及している。しかしこれはあくまでも「レアアース・カードの本気度」と「信頼できない企業」リスト発表の本気度を測るための物差しにはなるとしても、決して「武器を使った戦争」を指しているとは思えない。つまり、米中貿易戦あるいは米中ハイテク戦は長引くとみなして、日本は国益に適った道を選ばなければならないだろということになる。本コラムは、その注意を喚起するために、中国の現状を紹介したまでだ。

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中