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天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶

米中経済戦争の余波──習近平の権力基盤が早くも揺らぎ始めた

2019年6月5日(水)18時25分
長岡義博(本誌編集長)

また、清朝には「扶清滅洋」を掲げた義和団という愛国主義団体があったが、現在の中国には五毛党(1件当たり5毛<約6円>の報酬で、中国政府に有利な発言をネット上に書き込む世論工作員)や、「自乾五(自発的に政府擁護の論陣をネットで展開する中国ネットユーザー)」がいる。義和団は清朝に反対する人々を「漢奸(売国奴)」と呼んだが、五毛党や自乾五も中国政府と異なる意見を持つ者を「漢奸」呼ばわりしている。

宗教弾圧も似ている。清朝と義和団はキリスト教の伝道師を殺害したが、現在の共産党はキリスト教の教会だけでなく、新疆ウイグル自治区のイスラム教モスクを破壊している。清朝はイギリスと条約を結んだあと、条約を反故にして戦争に至ることを繰り返したが、いったん合意に達しかけてそれを反故にする現在の中国の交渉はそれと同じだ。清朝は制度の改善を拒否したが、現在の共産党も制度の改善を拒否している。

――歴史を振り返ると、アメリカは中国を一貫して重視してきた。第二次大戦で日本と戦争をしたのは、中国を日本に渡したくなかったから、とも言える。であれば、米中はいつか「手打ち」をするのではないか。

イギリスは清朝政府から香港を租借したが、土地が欲しかったわけではなく、必要としたのはあくまで商人たちの居住地だった。イギリスが清朝に求めていたのは市場。清朝に土地を求めていたのはロシアだ。アメリカも土地ではなく、開放された市場と平等な貿易を求めていた。中国のネット民にこんな笑い話がある。「中国政府は現在アメリカを敵に、ロシアを友人にしているが、失った土地は友人の手から取り戻された」と(笑)。

鄧小平は1979年に党内の反対を押し切って訪米したが、その際「長い間観察した結果、アメリカの友人は豊かな国が多いが、敵は貧しい国が多い」と語った。以来、米中関係は共産党にとって最も重要な対外関係になった。だが現在、習近平は対米関係をうまく仕切れていないことで党内から批判されている。しかし彼には米中関係をうまく仕切る能力がない。

なぜか。現在の状況を乗り切るためには、変化に適応する必要がある。しかし、習近平と(ブレーンとされる)王滬寧(ワン・フーニン、共産党政治局常務委員)にはその能力がない。文革や毛沢東時代に戻ることを思想的武器にしている彼らには無理だ。改革すべきなのに改革せず、開放すべきなのに開放しない。当時の清朝と同じだ。

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