最新記事

中東

米イラン戦争が始まったら、海上戦ではイランの勝ち?

2019年6月5日(水)13時30分
トム・オコナー

2010年の海上演習に参加したイラン革命防衛隊の高速ボート Fars News-REUTERS

<02年にイランを仮想敵国に見立てた軍事演習で米軍がめった撃ちにされていた痛い過去>

アメリカは世界最強の軍事力を保持していると言われがちだが、イランによって既に壊滅的に打ち負かされた過去がある。もっともそれは、02年にイランを仮想敵国として行われた米軍による軍事演習での話だが。

米イラン情勢が緊迫したのは、5月初めに米高官の情報として、イランがペルシャ湾岸で新たなミサイル計画を予定しているという報道が出たことに端を発する。「イランの脅威が高まっている」――それを示す情報の1つとして、イランの小型の古いボートが巡航ミサイルを運ぶ姿を捉えた衛星写真が報じられた。

確かにイラン海軍はミサイルを搭載した高速攻撃艇を保有しており、イランはこれらがアメリカの最新鋭の軍艦をも破壊できると豪語している。しかしイランのラバンチ国連大使は、「われわれは小型船からミサイルを発射などしない」と反論。

アメリカは「虚偽の情報」を利用して紛争への道筋をつけようとしている、こうしたやり方は03年にアメリカがイラクに侵攻した際と変わらないと批判した。

一方で、米イランの海上戦には、過去に1つの「勝敗」が出ている。アメリカが02年、コンピューターでのシミュレーションと実践を交えた大規模な軍事演習を行ったところ、戦艦や戦術をイランのような国に見立てた「赤チーム」が仮想アメリカの「青チーム」をめった撃ちにする結果が出たのだ。

仮想米軍が演習で「ズル」

アメリカは02年の時点で、イランが大量破壊兵器を保有し、ミサイル活動を通して地域の安定を脅かし、イスラム過激派を支援していると糾弾していた。そしてこの年の夏、アメリカ統合戦力軍(現在は解体)は赤チームを仮想敵に見立てて2億5000万ドル規模の軍事演習を行った。青チームを率いるのは米陸軍大将のバーウェル・ベル。イランやイラクのようなペルシャ湾の産油国に見立てた赤チームを率いるのは、米海兵隊中将ポール・バンライパーだ。

赤チームのバンライパーは青チームに巡航ミサイルの集中砲火を浴びせ、イージス弾道防衛ミサイルシステムのレーダーを圧倒し、空母打撃軍に相当する戦艦群の大部分を撃沈した。その上で、高速攻撃艇によってゲリラ攻撃を仕掛け、ミサイルや自爆攻撃で青チームの残りの戦艦をほぼ跡形もなく撃沈した。

だがこの演習を監督した米国防総省は、損失を認めるどころか米艦隊を戦闘前の状態に戻し、赤チームの戦力を勝利不可能なレベルにまで無理やり抑制した――と、不満を抱いたバンライパーが知人に宛てたメールで明かしたことが後に報じられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米9月雇用11.9万人増で底堅さ示唆、失業率4年ぶ

ビジネス

12月FOMCで利下げ見送りとの観測高まる、9月雇

ビジネス

米国株式市場・序盤=ダウ600ドル高・ナスダック2

ビジネス

さらなる利下げは金融安定リスクを招く=米クリーブラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中