最新記事

AI

AI開発、二酸化炭素排出量は車の5倍

2019年6月14日(金)15時30分
松丸さとみ

「環境への影響がここまであるとは思っていなかった」 Tommy Lee Walker-iStock

<米マサチューセッツ大学アマースト校の研究者がAIを訓練する際に必要なエネルギー消費量と金銭的なコストを調査した......>

4つのニューラルネットワークで調査

近年の人工知能(AI)の発展は目覚ましい。人間の生活をどんどん便利にしてくれているAIだが、実はその開発の過程で大量の二酸化炭素を排出し、地球にやさしくないことが明らかになった。1つのAIを訓練する際の二酸化炭素排出量(カーボン・フットプリント)は、平均的な乗用車が製造から廃車までに排出する量の約5倍になるという。

英科学雑誌ニューサイエンティスト(電子版)によると、米マサチューセッツ大学アマースト校のエマ・ストラベル氏率いるチームはこのほど、AIを訓練する際に必要なエネルギー消費量と金銭的なコストを調査した

対象としたAIは、自然言語処理(NLP)という、人間の言語を処理する技術に使われる大型のニューラルネットワーク4種類(Transformer、ELMo、BERT、GPT-2)だ。Transformerはオンライン翻訳の「グーグル翻訳」に使われているAIであり、GPT-2は、いくつかの文章を与えればあたかも本物の記事のように架空のニュース記事を書くAIだ。

AIを訓練するには、大量の文書を読ませ、言葉の意味や文章の構造を学ばせる必要がある。ストラベル氏のチームは、この作業を前述の4種類のAIについて行なった。1つのAIに1つのGPUを使って1日訓練させ、その際の電力消費量を測定した。

1日に必要な電力が分かったところで、それぞれのAIの開発者から報告された各AIの訓練に要する日数をかけ、訓練が完了するまでに必要な電力を算出。米国で発電する際の平均的な二酸化炭素排出量を使い、各AIの訓練にかかる二酸化炭素排出量をはじき出した。

精度が高いほど環境に負担

訓練に必要な電力は、AIのモデルやバージョンによって異なり、特にニューラル・アーキテクチャー・サーチ(NAS)という、精度を高める処理を行なった場合は時間がかかり、多くの電力を消費した。NASを使わなかった場合にTransformerを訓練するのに要した時間は84時間だったのに対し、NASを使った場合は27万時間以上かかった。ニューサイエンティストはこれだけ時間がかかる理由として、NASはより自然な言語を理解するために試行錯誤をして学習していくようデザインされているためだと説明している。

前述の4つのニューラルネットワークのうち、もっとも電力を消費したのがNASを使った場合のTransformerで、二酸化炭素排出量は284トン。これは平均的な乗用車が製造から耐用年数分の使用と廃棄までの全過程で排出する二酸化炭素量(約57トン)の約5倍になる。

NASを使用しなかった場合に最も二酸化炭素を多く排出したAIはBERTで、排出量は約0.63トン。米マサチューセッツ工科大学(MIT)を母体とする科学メディア、MITテクノロジーレビューは、飛行機でニューヨークからサンフランシスコを1往復した時に排出される二酸化炭素量に近いとしている。

スペインのア・コルーニャ大学のコンピュータ科学者であるカルロス・ゴメス・ロドリゲス氏(今回の調査には参加していない)はMITテクノロジーレビューに対し、「おそらく多くのコンピュータ科学者は、こうしたことを漠然と考えていたとは思う。しかしこの数字は問題の大きさを表している。私自身も、私が話を聞いた他のリサーチャーも、環境への影響がここまであるとは思っていなかった」と話した。

MITテクノロジーレビューは、実際のAI開発は新しいモデルをゼロから作ったり、既存モデルに新しいデータセットを適用させたりするため、現実的にはもっと多くの訓練と調整が必要となるとし、数値に表れているよりも多くの二酸化炭素を排出することを示唆している。

ストラベル氏は今回の調査結果を、7月にイタリアで開催されるコンピューター言語学会の年次総会で発表する予定だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国万科の元建て社債が過去最安値、売買停止に

ワールド

鳥インフルのパンデミック、コロナ禍より深刻な可能性

ワールド

印マヒンドラ&マヒンドラ、新型電動SUV発売 

ワールド

OPECプラス、第1四半期の生産量維持へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中